窮屈な学生生活での唯一の楽しみはメイクをしてプリクラを撮ること

スカートは膝丈で、眉と髪はいじってはいけなくて。私達は何の目的で、靴下の丈や靴の色まで決められていたんだろう?

文武両道を謳う窮屈な学生生活の中で私が唯一楽しみにしていたことは、メイクをして友達とプリクラを撮りに出かけることだった。

きっかけはギャル化した友達と遊んでいた時に、ノーメイクの私が釣り合わな過ぎてカツアゲに遭っていると勘違いされたことだ。自分的には楽しく遊んでいたのに、街中で心配した人に声を掛けられて衝撃だった。私は彼女らと釣り合っていない、最低限の身だしなみを整えなければ!ギャルへの密かな憧れも相まって、そこからメイクの研究が始まった。

険しいギャルへの道。努力を重ね、「なりたい自分」に近づいた

とはいえガリ勉で陰キャだった私のギャル道は険しく、慎重に歩みを進めるものとなった。
眉毛を剃るわけにはいかないので、遊ぶ時のみコンシーラーで消す。カラコンを入れるためにわざわざ眼科でレクチャーを受ける。練習としてお風呂に入る前にこっそりメイクをして、すぐに落とす。こうしたギャルの豪傑さとはかけ離れたコツコツとした努力で、私は徐々にコツを掴んでいった。

「友達と出かけてくる!」
そう言って早めに家を出て、駅前の商業施設のトイレに入ったら準備開始だ。

カラコン、つけまつげ、大粒のラメ。普段の生活では縁がないものを身につけると、本当に気分が上がった。プリクラに映る普段とは違う自分。すごくキラキラした気持ちだった。そんなことをしていたら、少しだけ欲が出てしまって。

ある日思い切って、美容院で耳の後ろを刈り上げた。ギャルの友達がやっていて最高にイカしてると思っていたヘアスタイルだ。上の毛は長く残したので、髪を耳に掛けなければバレないと思った。9mmのバリカンで刈り上げた所だけ高校球児みたいな手触りで、私は密かにさわさわと触ってはニヤリとした。

この刈り上げは私の密かなギャルマインドの象徴だ。今考えればただのイキリだが、当時は結構無敵な気持ちだった。

誰を傷つけた訳でもないのに。好きな恰好をしているだけで怒られた

ところがどっこい。刈り上げはすぐに家族や部活の顧問にバレ、めちゃくちゃにめちゃくちゃに怒られた。もうそんな言わんでもよくね?と涙目になるくらい。お母さんだけが仮屋崎さんというあだ名をつけて可愛がってくれたのが救いだったけど(カリアゲだけに)。
私のギャルマインドは、キラキラしたあの気分は、あっけなく否定されてしまったのだった。

陰キャの私も、好きな格好をしている時は楽しい気分でいられたのに!だれを傷つけたわけでもないのに、好きな格好で自己表現をして何がいけないんだろう?TPOに合わせた振る舞いというのは一理あるが、統率された普通に沿わなければいけないのは時に窮屈だ。あれ、人を見た目で判断するなって誰か言ってませんでしたっけ。

うっかりお堅めの職業に就いてしまった私は今日もTPOを気にしながら、本当は紫髪にしてピアスをバチバチに開けたい衝動を抑えている。
固定概念に囚われず、誰もが好きな自分を表現できる世の中になりますように。
ギャルになれなかった私は、密かにそう願っている。