2年半付き合った甘党の嶋田くんと別れたのは、彼が同じサークルの女とセックスしていたからです!
 2か月ほど前、嶋田くんちの薄汚いベランダの端っこに、私のものではないフリフリのパンティが干してあるのを見つけた時は全身の血の気が引きました。問い詰めると、終電を逃した同級生の『オンナトモダチ』を仕方なく泊めたと彼は主張しましたが、オンナトモダチはノーパンで帰ったのでしょうか?
 否。L I N Eトークを確認した所、計画的に企てられたお泊まりデートであったことは一目瞭然でした。

一緒に食べようと買ってきた二つのショートケーキは彼の顔面にヒットした

 人間とは愚かで、よせば良いのに、出来たばかりのカサブタを剥がしてしまう生き物です。同様に私も愚かな生き物であったので、わざわざゴミ箱をひっくり返して、ティッシュに包まれた汚い使用済みコンドームを探し出してしまいました。カサブタは剥がしてもグジュグジュの傷口がコンニチワするだけですが、私の受けた傷は他人の体液が染み込んで痛み続けているので、しばらく治りそうにありません。

 完全に罪状を認めた嶋田くんから発せられた最後のセリフは、
「別にあいつのこと本気じゃないから」というしょうもない言い訳だけでした。
 裏切られた憤り、悲しみ。複数の感情がごちゃまぜになる中、私はもうほぼ残っていない気力をなんとかふり絞り、「もう終わりだから」と口にすることができました。
 不貞腐れたように押し黙る嶋田くんの顔を見ると、この2年半の私の記憶の中にある彼の笑った顔、照れる顔、様々な表情を思い出し、またそれらの愛おしい思い出は彼自身の手によってすべて汚されたという事実に涙がこぼれました。
 20分前に駅前のケーキ屋さんで買ってきたショートケーキ2つを彼の顔面にヒットさせ、アパートから飛び出してすぐに帰りの電車に乗り込みました。電車内ではあふれる涙をこらえることに必死で、最寄り駅に到着する頃にようやく自分の両手が生クリームでベタベタになっていたことに気が付きました。

愛の幕引きは、パンティ発見時ではなく彼が私を引き止めなかった時だった

 一連の顛末を友人に報告すると、皆揃って『最悪だったね』とか『よくやった!』と私に労いの言葉をかけ、不貞行為に走った彼のことを批判してくれました。
 しかし、私が最も絶望したのは浮気されたという事実ではなく、彼が部屋を飛び出していった私を追いかけてこなかったという点でした。あの日、私は怒り、傷つきながらも心のどこかで彼が(例え顔面生クリームまみれでも)私の為に走って追いかけてきてくれるのを期待していました。
 2年半育んだ私たち二人の愛は、私がフリフリのパンティを発見した時に終わったのではなく、彼が私を引き止めないという判断を選択した瞬間に終了したのです。
 そしてそれに気付いた時、例え「終わりだから」と別れを告げたのが私であったとしても、本当の意味で彼に選ばれず、振られてしまったのも私なのだと察しました。

 仮にあの日浮気が発覚していなかったとしても、彼の私への気持ちが無くなっていることに気付くのは時間の問題だったのでしょう。気づかぬうちに私という人間は嶋田くんから見限られていて、しかも誠意を持って別れ話をするにも値しない相手だとナメられていたのです。それを痛いほどわかっていながら、私は私を裏切った彼を恨むことができません。彼と過ごした2年半の月日を忘れるには。恐らくまだまだ時間を要すると思います。

わかってるよ!けど、ねえ嶋田くん、また私のこと好きになってくれる……?

 ところでつい先日、夜中23時ごろに彼からL I N Eが送られてきたんです。内容は「元気?」とか、確かそんな感じの、こちらの様子を伺うようなメッセージでした。すぐさま「いきなり何?」と返信すると、彼からは「会いたい」。
 別れたとはいえ、嶋田君からの久しぶりの連絡に思わず心臓の鼓動が跳ね上がり、彼の中にまだ私という存在が残っているのだという微かな喜びを与えてくれました。
 しかし、同時に私はわかっていました。
 あの日、あの時、泣きながら飛び出した私を追いかけてくれなかった時点でもうあの恋はとっくに終わっていて、いまLINE画面の向こうで私にメッセージを打っている男は、単に付き合っていた元彼女がまだ自分のことを好きかどうか確認して、都合よく利用したがっているだけのしょうもない男でしかないことを。

 私はいつもいつも、絶望にのまれる度に『彼が女物の下着を履く趣味があったのかも』とか『彼が追いかけてくるかも』とか『女の子を泊めたけどエッチはしてないかも』とか、在りもしない希望や可能性を想像してしまいます。しかも、想像に抑えておけばいいものをその可能性を死に物狂いで確かめようとして、結果的にそれを自分から破壊しています。
 そしてまた、『彼がまた私を愛してくれるかも』と醜悪なポジティブシンキングが止められないのです。
 恐らく、この微かな希望を私自身の手で破壊する日も、そう遠くないでしょう。