今日は、雨だ。
雨を見て思い出す事、水たまりの中のあめんぼ。泥だらけのグラウンド。相合い傘。水没したiPod。雨宿りのキス。ピンクの水玉の長靴。

大好きだった雨。今はしかめ面で窓の外を眺めてしまう

子供の頃、雨が大好きだった。
雨が降るのが楽しみで、いつも心待ちにしていた。
雨が降ると、お気に入りのピンクの水玉の長靴を履いて、雨の中わざわざ出かけた。
ピンクの水玉の長靴から伝わるちゃぷちゃぷという水の感覚が気持ちよかった。

晴れた日に片付けられたピンクの水玉の長靴は、雨を待っているかのように靴箱の中からこちらを覗き、その姿が愛おしく、いつもうずうずしていた。

傘もささず、ご機嫌に走り出したあの頃からは想像もつかないが、今はしかめ面で窓の外を眺めてしまう。

あの頃、私の1番のお気に入りだったものは、母に買ってもらったピンクの長靴。
私の今の1番のお気に入りは、ロングスカートだ。
クローゼットにある20着以上あるロングスカート。

ピンク、ブラック、ホワイト。
フレア、チュール、プリーツ。
この中から毎朝一着選ぶのが私の楽しみだ。
だがしかし、雨だと、ロングスカートが、履けない。

好きな男の人の声をきっかけに、ロングスカートがお気に入りに

私は一般平均より背が低い。
皆にとっては膝下のスカートでも、私が履くと立派なロングスカートになってしまう。
よほど高いヒールを履かない限り、雨の日はスカートの裾が濡れてしまうのだ。
濡れたスカートを履いているのは大人のレディとしていただけない。
なので雨の日は私はロングスカートは履かない。
……履けない。
なので雨の日に出かける事を恨むしかないのだ。

私が、ロングスカートが1番のお気に入りになった理由は「かわいい」がきっかけだった。
「ロングスカート履いてる女子ってかわいいよね。」
好きな男の人の声ってどうしてこんなにすぐ耳に届くんだろうか。
その情報を手にした次の日から、毎日ロングスカートを履いた。
今思い返せばあからさますぎる。
だが、毎日の努力が実ってか1週間後にデートをして、恋人になって、先月別れた。

デートには毎回テイストの違うロングスカートを履いていった。
もちろん「かわいい」をもらう為だ。
1年間の交際でロングスカートはクローゼットを圧迫した。
彼への未練は全くない。

だがあの頃、恋に恋していた私に未練があるかのように、ロングスカートには未練たらたらな私だった。
彼に好かれようと思い履いたスカートが、今では自分をご機嫌にさせる物に変わっていたのだ。

いつだってかわいい物が私をかわいくしてくれた

思い返すと、子供の頃長靴が1番のお気に入りになったきっかけは、クラスメイトからの「かわいい」がきっかけだった。
そのあとのお気に入りは先輩が褒めてくれたスマホケース。
お財布、ワンピース、ハイヒールなど、私の周りはかわいいと言われたお気に入りのかわいい物で溢れている。
いつだってかわいい物が私をかわいくしてくれた。

私は人に「かわいい」をもらうことが好きだった。
それは褒められる満足感と同時に、自分の選んだものが「かわいい」のだと感じた。
きっかけはいつも人からだが、けっかはいつも自分だった。
私には、自分でかわいいは選べるけど、自分でかわいいは決められない。

次は何を1番にしてもらおう。
これから雨が多い季節になる。
どうせなら、雨の日にもご機嫌なれる1番がいいな。