絵にかいたような仕事人の父の元に生まれた私は三女らしく育てられた

わたしの父は仕事一筋の、それはそれは絵に書いた様な仕事人。遅くまで働いて、休みも週一程度。趣味もなく、休みの日も出かけたりしない。食事を手際良く作り振る舞い、常に何かしら動いてる。愛想は無いけど外面は良い、母もそんなこと言ってたっけな。

とある家庭の三人目の子として産まれたわたし。三人娘の三人目。わたしが産まれる四年ほど前、実は二人目を亡くしていた両親。先天性の病気で、生後数ヶ月の命だった。それからわたしの妊娠が発覚した時、女の子だったら四分の一の確率で同じ病気を持って産まれてくると言われていた。

当時の両親の年齢は30代後半、むしろ40代手前。いざ産まれてきたのは女の子、それがわたし。低くはない確率を回避して、何事もなく無事産まれてきた。

そんな生い立ちのせいか、沢山可愛がられ、甘やかされ、時には怒られて。三女らしい育ち方をしてきた。

実家を離れて暮らしていたある日、母から「実は…」と電話がきた

何かと一言多い父。周りの親とは違う頑固さにどんどん嫌気がしてきた。そしていつからか、父をうっとおしく思えてきた。女でも男でも、そうなるのは当たり前なのかもしれない。周りと違うのかどうかわからないけど、わたしは10代後半、20代に入る手前で反抗期になった。

少々遅れてやってきた反抗期・思春期に、自分自身苦労して頭を抱えたことを覚えている。仕事で家を空けることが多い父の言葉が、わたしには刺さらないことが増えた。「わかってるよ、そんなこと!」って、何度思い何度口にしたかわからない。

高校卒業後、就職したわたしには仕事と家の両方のストレスが溜まった。真剣に家を出ることも考えた。けど、なんだかんだ心地よくて、父も母も好きに変わりなくて、今の旦那と同棲を始めるまで実家にお世話になった。まぁ、実家を離れても自ら音信不通にするくらいその後も様々な長期戦の問題はあったんだけど(笑)。

ある日、母から電話がきた。定期的に「今何してる?」と連絡がくることはあったけど、その時は嫌な予感がした。もしもし、と出ると母の声のトーンがいつもと違って、やっぱり何かあったんだとわかった。母が「実は」と話し出した時、頭が真っ白になった。

父が患ったのは膀胱癌、前立腺癌。治るけど、問題はお金だった

え、お父さんが癌……?大きな病気とは無縁だった父が、癌……?
わたしが入籍して間もない時だった。
ただただ仕事を頑張って、何の欲も我儘も言わない父が何をしたって言うんだ。それ以外何も考えられなくなって、ただ涙が溢れた。

父が患ったのは膀胱癌、前立腺癌ステージ4。幸いにも、というのは不謹慎かもしれないけれど、手術で腫瘍摘出と治療をすれば治るとのことだった。わたしに出来ることは何か、足りない頭で必死に考えた。治療をすれば治るのなら、治療してもらおう。でも父は若干後ろ向きだった。

理由は金銭の問題。手術も治療もどれだけ続くか、いくらお金がかかるかわからないから。母方の祖母が90代でペースメーカーを入れながらも一人で暮らしている。父はその祖母のことが頭にあったのだと思う。実際、父の収入は両親の生活費だけでなく祖母の生活費にもあてられていた。

自分しかいないと始めた夜の仕事は父にバレ、電話で激怒された

母も身体は丈夫ではないし歳も歳だから働けない、姉も小さい子供がいて自分たちで手一杯。自分しかいない、そう思ったわたしは旦那に事情を話して了承をもらい、昼間の仕事と別で夜の仕事を始めた。

そのお金を全部実家に渡す、そうしたらお金のことは気にせず癌の治療ができる。母と姉と、当時昼間に働いていた職場の上司に伝えた。

「そこまで頑張りすぎなくても」と言われたけど、それしか出来ない。今までどれだけ言い合いをしても、どれだけ不満に思っても、わたしは家族が大好きだから。わたしが頑張って大好きな父が何とかなるなら、自分が疲労で倒れようともそれすら本望だった。

しかし、内緒にしていた父にバレてしまい、電話で激怒。また両親と長期戦の音信不通合戦。掛け持ち自体もお店の都合やら何やらがあって長くは続かなかった。
昔から母に対して「女は家に居て、家の事だけしてくれたらいい。おれが稼ぐから」と言っていたらしい父のことだから、口にはしなかったけど、昼夜働くなんて旦那のことや家事はどうするつもりか、と言いたくて怒ってたのかもしれない。

様々な争いを経て、現在の父との連絡はわたしが妊娠中ということもあってか、「体調はどうなんだ」といった極々平和なやりとり。先月、父の膀胱癌が再発してしまって再度摘出手術を受けたとき、一人分の食事を作るのも億劫だろうし 、父が退院したら一緒に食べられるだろうと思って、実家におかずをいくつか持って行ったのだが、母が病院にいた父にその報告をしたらしく、「お父さんが "アイツはそういう気が利く子だなぁ" と言ってたよ」と、母からスクリーンショットを添えた連絡を受けた。

そんなこと言われるなんて予想もできなかったから、父の言葉が心に響いて思わず泣いてしまった。

宇宙一かっこいいお父さんへ。いつまでもずっと元気でいてね

大好きなお父さんへ。
いつもお仕事お疲れ様。わたしが入籍する前に「お父さんみたいな人と結婚すると苦労するからな」って言ってたよね。確かに、って思う部分もあったけど、旦那とお父さん、仕事に対して一生懸命なところが似てると思うんだ。結局、お父さんみたいな人のことを好きになって結婚したよ。

でもね?わたしすごく幸せだから、お父さんの言ってたあの言葉は間違いだって言いきれるよ。お母さんだって、なんやかんやと愚痴を言いながらも、お父さんと結婚できたから今こうして生活出来てありがたいし幸せだよ、って言ってたもん。

お姉ちゃんが結婚した時は式を挙げさせてやれたのに、わたしにはお祝いすら何もしてやれてないって度々お母さんに話してること、実は知ってるよ。自分の身体のこともあるのにやっぱりいつも自分のことよりお母さんやわたしたち娘のことばかり。

それは気持ちだけで十分だから、そのかわり、いつまでもずっと元気でいてね。
わたしのお父さんは宇宙一かっこよくて、誰に紹介しても恥ずかしくない自慢のお父さんです。

お父さん、大好きだよ。