皆さんがインターネットで気軽に人と出会うようになったのは、いつ頃であっただろうか。
わたしは小学五年生の頃である。
まだパソコンが切る前の食パンのようにぶ厚く、もちろんスマートフォンなど誰も持っていなかった。
動画サイトやブログサービスでの自己表現が盛んになっていき、そこでの人と人との繋がりが生まれることが当たり前になり始めたあの頃、特にわたしが夢中になったものの1つに「お絵かきチャット」があった。
大きな画面に好きなキャラの絵を描きながら、オタク話に花を咲かせた
お絵かきチャットとは、書いて字の通り、自由に絵を描きながらチャットでお喋りもできるサイトで、最初に名前のみ入力すれば誰でも入室できる。
基本名前しか情報がないので断定は出来ないが、わたしが通いつめたチャットルームは、学生がほとんどだったように思う。
小学校が終わると、帰宅してすぐにチャットルームに入室した。5時間授業の日はまだあまり人がいないので歩いて帰ったけれども、6時間授業の日には走って帰り、急いでパソコンを立ち上げた。もう既に絵を描き始めている人がチラホラいるのだ。
次第にいつものメンバーが集まり始め、大きなキャンバス画面にそれぞれ好きなアニメキャラの絵を描きながら、キャンバス下のチャット画面でオタク話や雑談に花を咲かせる。
夕食やお風呂の時間帯になると1人2人と居なくなってゆくが、しばらくすると戻ってきてまた絵を描き始め、お互いの絵を褒め合う。
また、みんなの推しアニメ放映時には約束するでもなく集い、チャット画面でリアルタイムで感想を言い合う。
全然知らない人同士だったのに、ちゃんと「仲間」だった。
誰もがアレンを好きだった。親密になり、日常について話すように
そのお絵かきチャットで、1人の女の子と出会った。
彼女は当時ものすごく人気だった漫画のキャラクターの名前から、「アレン」と名乗っていた。
アレンは関西に住んでいる同い年の女の子。好きな食べ物は味噌汁(渋い)。彼女のプロフィールについて、それ以上は何も知らない。けれども趣味嗜好や物事の見方考え方は手に取るように分かる。
アレンは誰よりも可愛らしい絵を描き、チャットでは誰よりも柔らかい言葉を使った。少し険悪な雰囲気になると必ず間に入ってなだめてくれた。
誰もがアレンのことが好きだった。
そんな様子を気に入ったわたしが積極的に話しかけるようになり、仲が良くなった。2人だけのチャットルームを作り待ち合わせたり、お互いのブログを教え合ったりと、どんどん親密になっていった。
次第にオタク話から、お互いの日常について話すようになった。
10年以上経った今も、あの日々を思い出す。元気でいてくれたら
学校での出来事や家庭での悩み事など、毎日会っている親や友達にも、いや、むしろ"だからこそ"言えないようなことを、お互いにこっそり打ち明けるようになっていた。
わたし達は本当にたくさんの話をした。
名前も顔も知らない。けれど、たしかに尊い時間を過ごし、「親友」と呼べる関係になった。
アレンがいたから学校でも頑張れた。学校で新しいことにチャレンジして失敗しても、帰ったらアレンが話を聞いてくれる。わたしもアレンを慰め、応援してあげる。たわいのない話で笑いあえる。
学校以外でのコミュニティを築けたこと、そこでかけがえのない友人に出会えたことは、小さな田舎町で育ったわたしにとって大きな財産だった。
中学生になり、運動部に入り忙しくなったことで、みんなとは次第に疎遠になっていった。
少ししてから久しぶりに覗きに行ったことがあったのだが、知り合いは1人しかいなった。少し寂しいが、みんな次のステップへ進んでいく。自分もそう。自然なことだ。
今現在はサイト自体存在していない。
アレンとも自然消滅のような形で連絡を取らなくなり、今ではどこで何をしているのかも分からない。けれども、10年以上経った今でもたまにあの日々を思い出す。遠くに住んでいるのに、毎日わたしのそばにいてくれて、寄り添ってくれて、ありがとう。
もし、万が一、この文章をアレンが見つけてくれたら、是非連絡が欲しいものである。
でも、元気に暮らしていてくれたなら、もうそれだけでいいかな、とも思う。