6歳の時に家を出て行った父。憎いとは思わなかったけど寂しかった

私の父は、私が6歳の時に家を出て行った。
今でも覚えている。父が帰ってこないと泣きながらベッドにもぐり、母が「今度ちゃんと説明するからね」と背中をポンポンしてくれたのを。

離婚したんだと認識したのは小学生3年生のころだった。
父は、月に1回程度、家に電話をかけてきた。毎回、私が電話に出る。そして、父はいつもこう聞く。

「学校は楽しい？」
私は父からの電話がとても嬉しくて、精一杯学校の話をした。父は自分自身の話はせず、私の話に相槌するばかりだった。日本語が得意じゃないと気づくのはもっと先のことだった。
4つ年上の姉はいつも電話に出ず、「今家にいないって言って」が決まり文句だった。母もそっけなく対応していて、心がとても痛んだ。次第に、父からの電話もなくなった。

あの時は、仲の良い家族を見ると心から羨ましくなった。プロフィール帳の宝物ランキング1位に「家族」と書いている友達がとても眩しかった。
でも、父を憎いと思うことは一度もなかった。ただ、何してるんだろうと寂しくなることは沢山あった。

成人を迎え、父に「会いたい」という気持ちをひらがなで送った

そして、成人を迎えた時、祖母と2人きりの時に母の話になった。
私は、チャンスだと思い両親の馴れ初めや父のことをたくさん聞いた。その時、父は日本の裏側、途上国にいるということを教えてくれた。

父は、純血の日本人だが、海外で育ったため、日本語がカタコトであることも教えてくれた。父について知ることができてとても嬉しかった。そして、エンジンが全開になったのか母のところに行き、

「お父さんに逢いに行きたい」
そう言った。
「いいよ、行って来なよ」
二つ返事で、承諾を得た。

そこからの私は早かった。昔教えてもらった父のメールアドレスに、会いたいという気持ちを簡単にひらがなで打って送った。

数日後、返信が届いた。もちろんひらがなで、所々意味がわからないけど、そこには沢山の愛が詰まっていた。15年逢っていない娘と父の物語が再び始まったのだ。

大学3年生の冬休み。空港で涙を流す私を父は強く抱きしめてくれた

そして、大学生3年生の冬休み、逢いに行くことを決意した。渡航費は全て父が手配してくれた。あのクリスマスシーズンの航空券は、約半年分の給料でまかなったんだろう。父も必死になって私に来てもらいたかったのだ。

どんな顔をして会えば良いんだろう。
なんて話しかければ良いんだろう。
数日前から色んなシチュエーションを想像していたけれど、いざ飛行機に乗ると、心がはち切れそうになって思考が停止していた。

アメリカで乗り継ぎをして、現地に到着。
空港の入国ゲートを抜ける。
日本人らしき人がぽつんと立っていた。
「お、お父さん…」
父の面影は変わっていなかった。変わったのは目線の高さだ。目の前に自分の父がいることに感動して、涙がドバドバと溢れてきた。父は強く抱きしめてくれた。

それから、約2週間、父と娘の時間を存分に楽しんだ。色々なところに連れてってもらい、沢山甘えた。

父の母国語を勉強。いつか自分の言葉で想いを伝えられるように

父のカタコトの日本語に対して、言葉を選びながらゆっくり話す。伝えたいことを伝えられないってこんなにもどかしいんだと実感した。
そして、別れの時間はあっという間に来た。
再会できた喜びの反面、別れはとても辛かった。涙が止まらなかった。

そして、今、社会人2年目。
父の母国語、スペイン語を勉強している。
父に伝えたいことを伝えたいからだ。
伝えたいことは山のようにある。
「何で家を出て行ったの？」
「あの時、私たちのこと嫌いになったの？」
ううん、違う。過去のことはもうどうでもいいの。

お父さん、私は今とても幸せです。
お父さんに再会してから、自分がとても好きになりました。自分の父がとても素敵な人だと分かったから。お母さんと上手くいかなかったのは残念だけど、私はお父さんもお母さんも大切だよ。

私は、もうすぐ結婚します。
お父さんに孫が出来たら海を渡ってまた逢いに行くからね。まだまだ元気でいてね。

世界で一人しかいないお父さん。
Te quiero mucho. (大好きだよ)