メディアに掲載される場合は、事前に学校の許可が必要になる。というのが、私の通っていた学校の規則だった。そしてもちろん、その許可は滅多なことでは下りない。
全ての選択は女優さんになるため。ルールの中で青春に夢を捧げた
私の幼い頃からの夢は、女優さんになることだった。一方で、私は学校のルールを守るべきだと考え、そうしていた。なぜなら、ルールを破ったら学校を辞めないといけなくなると思っていたからだ。
学校を辞めたら行く先はあるの?今の学校にいれば大学へエスカレーター式に進学することも可能だけど、辞めてしまったら大学受験できるだけの学力はあるの?
……退学後のビジョンを描くことが出来ず、正直辞められるものなら辞めたい気持ちもあったが、18歳になって卒業するまでは、夢に挑むのは我慢することにした。
その代わり、青春を夢に捧げ、挑戦すること以外出来ることは全てしようと決めた。
芸能事務所の養成所に入り、レッスンの時間と重なったため部活を辞めた。勉強は得意だったから理数系の教科も好成績だったが、文理選択では文系を選んだ。履修すべき教科が少なく、演技やダンス等の練習に時間を割くことが出来ると判断したからだ。
結局大学は外部に進学したが、その推薦入試を受験することを決めたのも、インテリなイメージがつけばクイズ番組に出やすくなるかなと思ったのがそもそもの理由だった。
全ての選択の目的が、女優さんになるためだった。それ以外の道は、全く見えていなかった。
青春をかけた夢に敗れて気がついた。世界も、私も、こんなに広い
そして、現在26歳。結果はご覧の通りOLをしていて、女優さんにはなれなかった。
実のところ、挑戦すら叶わなかった。高校卒業のタイミングで、女優さんになるために打ち込んだ無理なダイエットが原因で心身のバランスを崩してしまったのだ。
青春をかけた夢に、挑戦することなく敗れたこと。このショックは思った以上に私の心を蝕み、就職活動も、どうにかして芸能界やメディアに関連する仕事に就きたいと必死になり、関連企業以外は文字通り見向きもしなかった。
無事に希望の業界には就職できたが、内定した時点で燃え尽きていたのだろう。2年でアッサリ別の業界に転職して、今に至る。
昔の自分では思いもしなかった環境に来て初めて分かったことがある。世界も、私も、こんなにも広い、ということだ。
当たり前だが、世の中には芸能界やメディア業界以外にもいろいろな仕事がある。それに、私自身も、自分で思う以上に好奇心のある人間であったらしい。
旅行が好きなので、飛行機に関する仕事や街づくりも楽しそうだし、体調不良をきっかけに医療や健康の分野にも興味が出てきた。ファッションやコスメに関する仕事も覗いてみたいし、美味しい食べ物に関わる会社にも入ってみたい。プログラミングも勉強してみたいなぁ。
でも、今の日本では新卒のカードを使わないと難しい会社もあるし、そもそも文系に進んだ時点で選択肢から外れた職業もあるだろう。20代も半ばになって、やってみたいと思ってももう遅いのだ。今までたくさんのチャンスを逃してきたことに今更気がついて愕然とした。
もしあの時ルールを破れていたら。私は挑戦したいと、もがいている
もし、あの時、あの学校にいたときにルールを破っていたらどうなっていただろうかと考える。
いずれにしろ女優さんにはなれなかったかもしれないし、学校を辞めることになっていたかもしれない。でも、世界の広さに、自分の好奇心にもっと早く出会うことができたのではないか。そうしたら、無数の選択肢を試しながら、自分の可能性を模索できたと思う。
そんなことを考えていても、私は今26歳。まだ若いじゃん何にでもなれるよ、とは言われるが、新卒や10代にはもう戻れない。
可能性の扉が少しずつ閉じていくのを横目で見ながら、ひとつでも多くのことに挑戦したいと、もがいている。