父に伝えたいことを考えてみた。
それはいったい何だろう......。

考えてもすぐには思いつかなかった。

私は父に何を想うんだろうか。
たくさんのことを考えた。

何かを伝えたいのに、その言葉が見つからない。

父からの単調なメッセージ。私を心配している姿が目に浮かんだ

私は父を知らない。

ずっと同じ家に住んでいるのに、父のことを知らない。
好きな食べ物も、好きな色も、趣味も何もかも。
知っていることは仕事から10時に帰宅することだけだった。

高校生だった私は、大学進学のためにイギリスに留学することを決めた。イギリスでアートを学んでみたかった。

はじめ父は留学を許さなかった。
家から通える距離の大学を選んで欲しそうだった。
私の意志は揺るがず、最終的には、頑張って勉強してこいと背中を押してもらったけれど、空港で寂しそうに見送る父の姿を見ると、堪えていた涙が溢れそうになった。

イギリスについて、ケータイをチェックしてみると、父からたくさんのメッセージが届いていた。
「着いたか?」
「どうや?」
「イギリスはどんなところや?」
そんな単調なメッセージだったけれど、私を心配している姿が目に浮かんだ。

最初、友達も出来ず、寂しい思いもしたけれど、私はいつも、「友達できたか?」の返事は嘘をついた。

「友達できた。大学も楽しい」と。
ほんとは一人もいないのに。

マイメロに、コミュニケーション不足が映し出されていた

すこし慣れ、友人もできた3ヶ月後くらいにダンボールが突然家に届いた。

中を開けると、サンリオのマイメログッズがみっしりと入っていた。
父からの贈り物だった。

イギリスにはマイメロがないからということらしい。もう大学生になった私はマイメロ以外にも好きなものがあるのに、幼稚園の頃に好きだと言って集めていたマイメロをまだ好きだと思って送ってきてくれた。
ネットでたくさん頑張って集めていたと、あとで母から聞いた。

マイメロは好きだけど、ピンクのマイメロではなく、私は赤ずきんを被ったマイメロが好きだった。父から送られてきたマイメロは全部ピンクだった。そんなところが、小学校高学年からのコミュニケーション不足が映し出されていて、つい微笑んでしまった。

小学校低学年の頃までは一緒によく遊んだりもした。プールにもいったし、映画も観に行ったし、お祭りも一緒に行った。
プールでは混んでいる滑り台にまた並ばないといけないからという理由で、滑らない父が子供に混ざって並んでいた。そして私が滑り終わって戻っても、またすぐに滑れた。今思えばズルだけど、その時は父の考えがすごいと思った。

映画は私が観たかった"どろろ"を観に行った。今は無くなってしまった近くのショッピングセンターに行った。
映画が始まって一時間後くらいにグーグーと聞こえてきたので隣を見ると、父はいびきをかいて寝ていた。幸い、周りに人がいなかったのでよかった。映画を見終わる頃に起き、終わった後は、私に「面白かったな!」と言った。
寝てたくせに。でも、忙しい中、疲れているのに連れてきてくれたのだろう。
私も、その時は「うん」とだけ言った。

お祭りは夏祭りだった。
その当時流行りだった、ビニールのなかに空気をいれるダッコちゃんが目についた。
輪投げのゲームで高得点になると一番大きいダッコちゃんがもらえるとのことだった。
輪投げが小さな私にはなかなか難しく、300円で3回なげられる輪も全て終わってしまった。お兄さんは一番下から小さなビニールの景品を出してきた。私はそれじゃいやだった。どうしても一番大きいダッコちゃんが欲しかった。
悲しそうにしている私を見て、300円、父は財布から出した。私は絶対に成功させる覚悟で挑戦した。そんな思いとは裏腹に、輪はぜんぶ外れた。
父は、
「兄ちゃん、これなんぼやねん?買うわ」
と言った。「600円です」といったお兄さんに父は千円札を出していた。
私は欲しかったピンクのダッコちゃんを遂に手に入れることができた。
自分より大きなダッコちゃんを抱っこした瞬間は今でも忘れられない。
そんな私を見て父も微笑んでいた。
その日は本当に満足だった。
今思えば、これもズルだ。

父は世の中を生き抜く術、楽しみ方を知っていて、それを教えてくれた

でもこういった経験がいまの私に活かされていると思う。どうやって世の中を生きていくかに繋がっていく。
イギリスでの生活では、いい人ばかりではなかったし、日本でもさまざまな人がいる。
そんな中でも自分を大切にし、そして自分や周りを犠牲にせず、人生を楽しむ必要がある。
それらを私は小さい頃に父から学んでいたのだ。

冒頭に私は父を知らない、と述べたけれど、私は父を知っている。

幼い頃の記憶や思い出だけで十分だった。
父は世の中を生き抜く術、それでいて楽しむ方法を知っている。
それを教えてくれたのだ。
父は、やるからには何でも1番になれ!といつも私に言った。

果たして、今、私は1番なのだろうか……。

現在、フリーランスのイラストレーターとして活動している。
続けていこうか迷う時もあるが、父の強さは私の強さ。

教えてもらったことを糧に、1番になれるように、父に頑張っているという姿をみせれるように、これからも努力していく。 
これが、私が父に伝えたいことだ。