一人、昼間から酔っぱらっていた。2LDKのリビングにいる私は、一人ぼっちだった。ずっと一人ぼっちになりたかった。

「酔っぱらっちゃって、可愛いなぁ」なーんて、付き合いたてのカップルみたいな言葉、パパ(夫)は絶対に言わないだろうなぁ。

家族と時間を共有することが当たり前になり、一人の時間に飢えていた

もう結婚して4年経つし、付き合いの期間も長かった。ほとんどお酒を飲まない彼は、昼間からお酒を飲みたいという欲求を、理解できないだろう。軽蔑するかもしれない。だけど今日は、家に誰もいない。パパは子ども2人を連れ、実家に遊びに行っている。

「もう一本、飲もうかなぁ」。誰も答える人がいないから、当たり前だけど言葉は独り言になって、なにもない空間に吸い込まれ消える。不思議な感覚だった。しばらく経験していない、静けさだった。

20歳頃から付き合い始め、5年ほど経って結婚。すぐ妊娠し、娘が産まれた。とにかく可愛くて愛おしくて、自分の身なりや趣味のことなんか忘れて、育児に没頭していた。その2年後、男の子を出産した。

2人の幼子との生活は、わかっていたけど大変なものだ。夜はその泣き声で何度も眠りを妨げられ、昼間も子どもの要求に応えるので精一杯で、常に自分のことなど後回し。辛くて何度も泣いて、でも、その何倍も子どもに笑わせられて、世界で一番幸せだと思った。

家族と時間を共有することが当たり前であり、その賑やかさが日常であった。だからこそ、私は常に飢えていた。たった一人で過ごす、自分のための自由な時間に。

突然与えられた一人の時間、何をしようと考え、お酒を飲むことにした

「今日、子どもと実家行ってくるね」。下の子が1歳を過ぎ、ようやく生活も落ち着いてきた5月の連休、パパが子どもたちを連れて実家に遊びに行くと言い出した。夕方には帰ってくるという。

突然与えられた一人の時間、一体何をしよう? 一人じゃないとできないこと、思いついたのは、お酒を飲むということだった。パパは仕事が遅いし、出張が多い。子どもを自分一人で寝かしつけまでするので、お酒を飲んで酔っぱらうなんて、普段はできない。せっかくの自由時間、一人陽気にお酒を飲んで、好きなものを食べよう。

マンションのため、部屋に一人でいると実に様々な音が聞こえてきた。どこかで扉を閉める「ガチャ、キー、ガタン」、水道管を水が通る「シャー」、隣の部屋のテレビ「ボソボソブツブツ」の音がする。普段、子どもたちとの生活だと、かき消され聞こえてこない音だ。

きっと、うちの子の笑い声、泣き声、走り回る音は、マンションじゅうに響いているだろうなと思い、一人苦笑した。

せっかくの自由な時間、自分が「母であること」を忘れる。それでいい

甘いおやつを食べながらビールを飲み終えたら、急にやることがなくなった。そろそろ部屋に掃除機かけなくちゃなぁ。洗面台と風呂場の排水溝にゴミが溜まっていたから、取っておかなきゃ。やらなきゃいけない家事が頭に浮かんで、腰を浮かせた。

いや、せっかくの自由な時間を、家族のために使ってやるもんか。今は、自分のためだけに時間を使おう。そうだ、久しぶりに本を読もう。音楽を聴こう。束の間、自分が母であることを忘れる。それでいい。

子どもたちはこれからどんどん大きくなって、私の知らない場所で知らない人と過ごす時間が増えるだろう。私の手の届かない所で、たくさん泣いたり笑ったりするだろう。私が子どもたちのために出来ることは、だんだんと少なくなっていくかもしれない。

そんな私は、玄関の扉が開いて帰ってきた子どもたちに声を掛ける。「おかえりなさい」と。その一言に「無事に帰ってきてくれて、ありがとう」の想いをこめて。

そろそろ夕方、もう帰ってくるかな。嬉しそうに駆け寄ってきた子どもたちをギュッと抱きしめ、世界一幸せな母に戻ろう。