「浅草で蕎麦を食べない?」と随分硬派なお誘いを受けた。

浅草なんて、上京したての頃1回観光に来た以来で、しばらく行っていない。
なんで急に蕎麦?という疑問は飲み込んで、私は行ってみることにした。
久しぶりの再会に緊張した。念のためと、一軍の下着を着けて、丁寧に顔を作った。

高校生の時好きだった彼から連絡。久しぶりに会うことになった

彼は交際相手でもなんでもない。私が高校生の時に、狂おしい程好きだった人だ。
今でもこうして気まぐれで連絡をくれる。

久しぶりに会った彼は、ますます私の好みの容姿に近づいていた。
大き目の古着ジャケット、ワイドパンツに『着られている』という可愛さが、私の胸をくすぐった。

「久しぶり。元気にしてた?」
「ここの蕎麦屋がおいしいらしくて。あれ?定休日だね」

残念ながら、おいしいお蕎麦にありつくことができなかった。
本当に彼が突然思い立って誘ったということがよく分かる。
仕方がないので、周辺を散歩した。代わりに見つけた定食屋で食事後、「行きたいところがあるんだ」とまた提案された。

シーシャ、とは聞いたことがあったが、お店に入るのは初めてだった。
みんなでたばこを吸うなんてひどく退廃的な場所ではないかと想像していたが、店員も含め若い層が多く少し安堵した。

平たく言えば、水たばこのことだ。腰くらいまでの高さの大きな魔法のランプのような瓶からホースが生えていて、そこから吸い込んで楽しんでと吸い口を渡された。宇宙人が食事をするならこんな感じの形態になると思う。

「ブフェッ」
一気に吸ったらむせてしまった。普通のたばこと違い独特のフレーバーがある。柑橘系の味を選んだが、思ったより甘ったるく、少し吸っただけでクラクラしてきた。なんて大人なアソビなんだ!

「夜の街、走ってみない?」車の助手席から眺める景色は爽快だった

その後、夜の閑散とした浅草寺でおみくじを引いた。夜もおみくじを引けること、知らなかった。彼は末吉、私は大吉。

そろそろ終電だ。おとなしく帰ろうか。どんな流れになるかとそわそわしていると、「夜の街、走ってみない?」と誘惑された。

カーシェアシェアカーを借りて、浅草から、ベイエリア方面へ。夜のドライブが始まった。
最近ドライブが趣味とのこと。私は東京に来て以来ほとんど車に乗ってなかったし、当時「カーシェア」の仕組みも知らなかったものだから、こんな楽しみ方があるのかと本当に感動した。
いつも歩きながら見ている景色も、助手席の窓から眺めるのは爽快だった。

彼は彼の好きな音楽をかけた。
スピードを急に緩め、路肩へ停車した。停止するときは私の前に手を置いて守ってくれる。

「ここのフレーズ、よく聞いて」
普段聞いていれば、なんてことない洒落たインスト音楽。
彼のキザな行動になんだかこちらまで気恥ずかしくなる気持ちと、自分の大切なものにだけ見せる眼差しを思い出し、こういうところもなんだかんだ好きだったんだよなぁ、と振り返る。

彼はもう私の好きな人ではない、大人になれてよかった

「高校の時、懐かしいね」
そう言って彼は私が高校生の時に好きだったバンドの曲をかけてくれた。爽やかな青い音楽が私を刺激する。

楽しかったね、一緒にバンドをやっていたあのころ。
高校の時にははっきり好きだと伝えたこともあったのだ。
でも、振り向いてもらえなかった。曲を聴くと思い出してしまう。

私の住む街まで送り届けてくれた。もう空はうっすらピンク色に変わっていた。

なんだかどっと疲れて、すぐに深く眠った。
下心満載で穿いた紐パンツも全然活躍しなかったけど、これでいいのだ。
いつでも刺激をくれる彼は、もう私の好きな人ではない。
17歳の恋は叶わなかったけど、大人になれてよかった。