「こんなハイトーンに染められるなんて思い切りましたね」
担当の美容師さんがにこやかに言う。
「そうなんですよ。今年から就活なんで滑り込みで染めようとおもって」
染めあがった私の髪の毛は、きれいで明るいベージュになっていた。
インターン募集開始まであと1か月。私はまた髪の毛を明るく染めた
大学が始まり、久しぶりに友達に会う。褒められる髪。太陽の下でよりいっそう明るくなる髪と心。お母さんは嫌がっていたけど。
四月、バイト先に無理を言って染めた髪。就活のためにも暗くしないといけない。インターンの募集開始は五月。まだ大丈夫。あと一1か月。私はまた髪の毛を染めた。明るく、透き通ったオレンジ色に。
「髪の毛明るいの、いいよね。でももう就活だから黒くしないとだめなんじゃない?」
この前お母さんと買いに行ったスーツは就活用。ボタンは二つに袖は短め。スカートじゃないとだめだからってストッキングまでカゴに入れて。
「多様性を重視して、他との差別化を図るのに、なぜ髪の色や服装の統一が求められるのでしょうか」
寝ぼけた頭に教授の声が響いた。
多文化や平等、快適に暮らすことを学ぶ私の個性は就活で排除される
今年三年生の私はもう五月には就活を始めないといけない。
血のにじむパンプスに、痴漢されやすくなるスカート。すぐに破けるストッキングに真っ黒の髪の毛。これが就活生が就活を始められるスタートライン。
「地毛よりも黒くなっちゃった」電車で聞こえた会話。歩きすぎてセンターラインのずれたスカート。せっかくきれいに色の抜けた髪に黒色を流し込む。学歴で落とされるES。
「女の子だから福利厚生はしっかりしていないと働きづらくなっちゃうよね」
突きつけられるライフプラン、容姿の差。インスタに流れる就活用メイク。
どうすれば日本で多文化が許容され、様々な人が平等に快適に暮らせるのかを大学で学びながら、私は個性を排除される。本当にESをよ(読)んで、面接で話してチームで動いているところを見れば髪の毛の色も服装も気にならないはず。
「もしも、いまの髪色のまま就活したらどうなりますか?」
「ほんとお前あたまおかしい」
「そんなの落ちるにきまってるだろ」
先輩は酔っぱらいながらへらへら答えた。
もし、この髪の毛で面接会場にいったら、どんな顔されるんだろう
いまは春、冬が嫌になるつらいスカート。電車が怖くなる膝上スカート。トイレに行くのもイスに座るのも嫌になるストッキング。
「パンツスーツじゃだめですか?」
「ダメではないけどやっぱりちょっとね……そんなことで落とされたくないでしょ?」
お店のお姉さんは困りながらそういった。なんでそんなにこだわるのって顔しながら。
もしこの髪の毛で面接会場にいったらどんな顔されるんだろうってにやにやしちゃう。
でも本当はそんな勇気なんてないから、次の美容院の日も決まってる。パンツスーツのほうが足長く見えるのにって思いながら、実家から送る荷物にはスカートをいれた。今頃パンツスーツは実家の押し入れで高校の制服と仲良くしてる。
私はこれから制服ぶりの、クローゼットには一着もないスカートをはいて戦っていく。
仕方がないから。勇気がないから。それ以上の実力がないから。
いろんな理由で自分を納得させながら、自分を殺す。
そんな私が就活で自分を語るアイロニー。個性の余命はあと少し。私の余命は一か月。