彼が好きなポニーテールを守ってきた私に衝撃。ショートカット計画が始まった

暑い。
オフィスに差し込む日差しがじんわりと汗をにじませる。
半袖をまくしあげる男性社員。
同僚の制汗剤の匂い。
扇風機の音。
髪の毛を切った後輩。
周りの変化が、夏が来たことをより感じさせる。
髪の毛を結び直すとシャンプーの香りがした。
昨日から使い始めたグレープフルーツの香りだ。
暑かろうが邪魔だろうが、私は私らしいこの髪型が今でも好きだ。
夏が来ると思い出す。
あの長い夏休みの事を。
「ショートカット女子最強」
教室では毎日そんな言葉が男子から聞こえてきていた。
ショートカットの芸能人が増えてから、クラスの男子の支持率は圧倒的にショートカット派が優勢だった。
クラスの女子も急激にショートカットにする人が増えた。
私は入学してからずっとポニーテールだ。
大好きなアイドルのトレードマークの髪型だから。あと男ウケもいい。それに
「俺も好きだな」
ショートカットトークに耳を疑う声が聞こえてきた。
私の片思いの相手だ。
中学の頃からずっと好きだった。
そして、ポニーテール信者の1人。のはずだった。
私がポニーテールを貫くもう一つの理由は、彼が好きだと言っていたから。
中学時代、彼は恋人を作らなかった。
好みのタイプは知らなかったけど、友達からポニーテールが好きなことを聞いた。
それから毎日ずっとポニーテールを貫いていた私に衝撃速報が飛び込んできた。
衝撃すぎて思わず振り返って男子たちの会話に目を向けてしまった。
楽しそうに会話を弾ませる彼の眩しい笑顔。
…今日もかっこいい。
明日から夏休み。
決めました。
夏の間にショートカットに挑戦します。
人生初のショートカット計画をたてて、私の夏は始まった。
彼に恋をしたのは中学2年生の時、初めて同じクラスになって、優しくてかっこよくて、みんなの人気者だった。
高校が同じだと知った時は飛び上がるくらい嬉しかった。
私は中学時代、血迷って別の人と付き合ったりしたけれど、高校からは一途になる事を誓った。
ポニーテールのモテ仕草を調べて実践したみたりもしたけれど、今日からはショートカットのモテ仕草を研究しなくてはならない。
そしてショートカットといっても本当に様々だ。
ネットを見ても雑誌を見ても選択肢が多くて悩んでしまう。
そして長年のロングヘアを切るのに少しばかり抵抗はあった。
元々、彼関係なくして女の子らしいポニーテールは大好きだったし、私に似合っているし、気に入っていた。
でも背に腹は変えられぬ。
夏休みが終わると同時にショートカットにして、ギャップを狙うんだ!
そして、ついについに告白する。
さよなら、私のポニーテール。
どきどきしながらバッサリと髪を切った。
「1番モテそうな感じで」とオーダーしたら、女の子らしいかわいいふんわりしたショートカットになった。
人気アイドルの髪型みたいだった。
長い長い夏休みが終わり、ついに新学期を迎えた。
何度も何度も鏡でチェックした。
家族も友達も似合っていると言ってくれた。
私も似合っていると思う。
緊張とわくわくが一緒に押し寄せてきて、久しぶりの通学路がいつもより長く感じる。
久しぶり会うクラスメイトが私の事を見て驚いたように何度も「かわいい!」と言う。
彼はどんな顔するかな。
いつも通りに「おはよう」って言えるかな。
そのあとなんて話しかけよう。
校門の数メートル前で彼を見つけた。
少し遠くから見る久しぶりの彼は相変わらずかっこよくて、眩しい笑顔だった。
髪型は変わっていなかったけど少し日に焼けているように見えた。
ときめきと緊張が私の心臓をまたどきどきさせ、もう一歩前に進んだ。
彼の眩しい笑顔は隣の人に向けられていた。
彼は女の子と手を繋いで歩いていた。
隣のクラスの女の子だった。
かわいいかわいいポニーテールの女の子だった。
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