「えっと、どちら様ですか?」
印刷された証明写真を見て、思わずつぶやいた。
この人、どこ見てるの?口めちゃくちゃ歪んでない?目のクマやばくない?顔、パンパン過ぎない?この不細工な方はどなた?
化粧品やサプリ、美容法も私を裏切る。ブサイクに太刀打ちできない
年に数回、検定試験を受験しているのだが、そこで証明写真が必要になる。安く済むので写真館ではなく、ボックス写真機を利用している。
それが毎回ひどい。しばらく落ち込むくらいひどい。
ボックス写真機を使って自分で撮るから、目線も外れて表情もおかしい。証明写真は自分への裏切り。自分ってこんな顔してたのか。鏡で見るのと全然違う。もう少し、ましな顔してると思ってた。
なんで、こんなに色が黒いの?半年飲んでる美白サプリ効いてないじゃん。あれ、けっこう高いのに。
顔もすごく大きい。小顔マッサージ効果ないじゃん。
髪もぼさぼさでみすぼらしい。毎日トリートメントしてるのに。
化粧品やサプリ、美容法も私を裏切る。僕らじゃ、君のブサイクには太刀打ちできないよ、バイバイ。
仲間を見つけて少しでも安心したいから、ネットを覗く
もう、外出するのはやめよう。引きこもって生きてゆこう。ダイエットもおしゃれもしない。この顔で何をやっても無駄だもの。彼氏もできないし結婚もできないに違いない。
一度でいいから、恋がしたかったなぁ。ああ、私はこの不細工な顔とともに一生一人で生きていくんだ……。
証明写真を撮った後は、なけなしの気力を振り絞って、「証明写真 ブサイク」「証明写真 ひどい」「証明写真 失敗」でひたすらネット検索する。
仲間を見つけて少しでも安心したいから。ネットを覗くと、同じような人がたくさんいてだいぶ癒される。自分の顔がこんな顔なはずない、鏡に映る顔と全然違う、という人が多い。
そうだよね、そうだよね。ブサイクになっちゃうよね。ネット上の誰かと手を取り合いたいような気持ちになる。よかった、私だけじゃなかった。
検索で6割程度立ち直ると、次は母の出番。完全復活のために欠かせないものを、母が持っている。
ブスな写真が撮れちゃったよ……。めそめそする私に母が「あるもの」を取り出しながら言う。「ほら、これ見せてあげるから元気出しなさい」
何枚か手元に残る証明写真。最近、これの利用法を見出した
「あるもの」――母の運転免許証である。この免許証の証明写真は、伝説の1枚である。
重病人、指名手配犯、ゾンビ、山姥。様々な異名を持つこの写真は、私にとっては勇気の写真。
私の顔の構造は、母に似ている。その母の証明写真がひどいならば、私の証明写真もひどくて当然なのだ。そして、そんな母も恋愛して結婚しているのだ。きっと私も……。希望を胸に私は立ち上がる。お母さん、ありがとう。
検定に使う証明写真は一枚だから、何枚か手元に残る。見るのも嫌なので捨ててしまおうと思っていたのだが、最近これの利用法を見出した。
スマホの待ち受けにするのだ。名付けて「ブサイク待ち受け修行」。
スマホを開きたくなくなるから、スマホの使い過ぎを防ぐことができる。スマホをいじらず勉強に集中できて、テスト前におすすめ。
さらにダイエットにも使える。食事前に見ると、食欲がなくなって食事量が若干抑えられるような気がする。
欠点は、人の前でスマホを開けないということ。この前、友人の横でスマホを開き待ち受けを見られてしまった。あわあわと理由を説明すると、彼女は言った。
「え、どういうこと?」
この友人は美人だ。いいなぁ、美人は。証明写真でうじうじ悩んだりしないんだろうなぁ。