他者が、ささやかな悪意を持って放った何の気なしの言葉を真に受け止め、傷つき、根に持ち続けてしまうことがある。
高校生の頃、初めての飲食店のバイト先で、金髪でタバコが好きという頭が悪そうだけれど、ちょっと見た目がタイプだなと思った男に陰でボソッと言われた。
「ぶすやん、絶対、彼氏いないよあいつ」という言葉。
女子校と塾という、異性がいないぬるま湯で生きてきた
そんな、彼にとっては何の気なしに放った素直な感想でしかない言葉が、心に引っかかってしまった。
率直に言うと、傷ついた。たしかに、わたしはデブで、目はしじみのように細く、肌はニキビだらけで浅黒く、鼻は豚のようで。客観的に見てもどうしようも無いブスだった。
けれど、女子校と塾という異性がいないぬるま湯で生きてきたわたしにとっては、自分の見た目を侮辱されるような言葉を面と向かってかけられたのは初めてだった。
少し良いなと思っていた相手から、彼氏いなさそうだななんて言葉をかけられるなんて。否応なしに、自分が異性から見て価値が低い存在であることを自覚させられた。ものすごく悲しくなった。
あたたかな両親と友人に囲まれ、わたしは自分がブスであることを自覚せずぬくぬくと生きていたようだった。
自分が女として価値が無いこと知り、心が張り裂けそうになったわたしは、自分の心を守るため、バイト先でブスで男らしいキャラを演じるようになった。女として、価値が無いなら、男のようにして男として価値があるように見せかける手法を取ったのだ。
苦手な下ネタを笑いながら話し、車やパチンコといった興味のないジャンルについても調べ、自分もハマってるかのように会話した。
彼の言葉に苦しめられたというのが、バイトを辞める要因の一つに
自分の女性という性を封印した。つもりだった。
それなのに彼はそんなわたしに対しても、「お前だけとは付き合えない」などと女として価値は無いと何度もわたしに擦り込みながらも、女として扱ってきた。それがとても苦しかった。見た目がタイプだったから、なおさら。いつも、彼の口から放たれる言葉に心を抉られていた。
ほどなくして、わたしは、バイトを辞めた。
進学のための勉強をしないといけなかったなど理由はあるけれど、辞める要因の一つとして、彼の言葉に苦しめられたというのもある。
それでも、近所にあるバイト先へは、友達の行きつけで、流れでよく行くことがある。
けれど、私は今は誘われる度に行くのを断っている。
少しずつ、若い今時の女の子というように見られるようになってきた
わたしは、バイトを辞めた頃、メイクと出会い、ダイエットをし、服に目覚め、一気に垢抜けたと言われるようになった。誰もが見向きもしないブスだったわたしだが、少しづつ女として価値がある、若い今時の女の子というように見られるようになってきたのだ。
そして、今、もう少しというところまで来ていた。今は、きっとまだ伸び代がある。だからまだ会わない。
次彼と会う時は、今やっている矯正も終わって、あと、5kg痩せてから。
自分の中の最高点を出してから。
そうすることが、きっと言葉で傷つけた彼への復讐となる。
彼に、お前が女として見れないと言い続けた女が女として見れるようになった姿を目に焼き付けてやりたいと思う。少しだけ好きになりかけていたあの見た目がタイプの男に、自分が言った言葉を後悔させてやりたいと思う。