シスターフッドとは、1960年代に女性の権利獲得を目指したウーマンリブ運動の中で生まれた言葉。女性同士の連帯。
問題に立ち向かうとき、こいつなら一緒に戦えそうだなと思える相手。友情愛情、そんな物を確認しなくても同じ敵の前では協力できるような繋がり。

私は今、小学校・中学校と9年間同じ学校に通っていた女友達と一緒に暮らしている。やっと落ち着ける場所ができた。家具も付いて、家賃は7万5千円の1K。いつも驚かれるのだが、1Kに2人で住んでいる。
そう、この家には一部屋しかない。だから私たちは同じ部屋でご飯を食べて、同じ部屋で眠る。今年の5月で同居を始めて1年が経つが、喧嘩は一度もしたことがない。

一緒に暮らし始めてからしばらくは、住むところも安定せず、エアビーという民泊サービスで1ヶ月ごとに部屋を借りて、その家賃を割り勘して暮らした。

「どこに住んでるの?実家住み?」
――実は、実家を出て友達と暮らし始めて……。

軽い世間話をする時に、どう説明しようかいつも迷う。ただの同級生?仲のいい友達?もちろん家族……ではない。それぞれDVから逃げてきました、なんて言うのは重たい気がする。
この間柄を形容することや説明することが難しくたって何かが変わるわけじゃないと思っていたけど、この「シスターフッド」はしっくりきた。
シスターフッドな私たち。いい響きだし、悪くない。

ステイホームだからオンライン飲み会、なのに彼女は家の外へ

私たちは中学校の部活の同期であり、同じクラスの仲良しでもあった。けれども、成人式以来連絡は取れていなかった。
同居のきっかけとなったその日は、他の部活の同期の子達がグループ通話に誘ってくれた。世は2020年4月。コロナ禍で、グループ通話でのオンライン飲みがブームになっていた。

彼女が、家の外に出るからちょっと待ってと言う。
自分の部屋があるだろうに、どうして外に出るのか不思議に思って理由を聞く。
そこで、彼女がバイト先の同い年の知り合いの家に居候させてもらってることを知った。

他の同期は不思議に思ったかもしれないが、私は父親が日常的に罵声を浴びせ、彼女のバイト先まで乗り込んできてわめいたエピソードなどを何度か聞いていた。彼女のお母さんは高校生の頃に亡くなっていて実家には味方がいないことも知っていたから、「やっと実家から離れられたんだ。」と思った。

今夜は、彼女を居候させてくれているバイト先の知り合い(=家主と呼ぶことにする)の友人たちが家飲みで集まってきたらしい。

彼女は家主に、「俺の友人たちに紹介するからお前も家飲みに参加しろ、お前も社会に出るなら初対面の相手と話すのは必要なスキルだ」と言われた。だからしばらくその場にいたが、居心地が悪かった。私たちとの電話を理由に飲み会を抜けてきたという話だった。
話だけ聞くと嫌な感じの男だ。聞くと、当の家主だってまだ社会に出たことはない学生だという。

「私と一緒に暮らそう」 支配から逃げ出すために手を取り合った

私は楽しい同期達とのグループ通話が終わった後、彼女に個別に電話をかけた。もっと詳しく事情を聞きたかった。
家主には歳上のガールフレンドがいて、彼女が居候していることを明かしていない。そのくせ彼女にも好意を示したことがあると言う。二股する気かよ。
そのガールフレンドが泊まりにくる日は、彼女は地元の駅前のネカフェに泊まっていると教えてくれた。古びたビルの一室にあるネカフェだった。

何度も言うが、これは2020年4月のことだった!テレビやスマホから密です!の声が響き渡る時世に若い女の子が1人、古いネカフェに泊まるしかないのか。
男のことも全然信用できなかった。彼女がいるのに、「好きかも」なんて立場の弱い彼女に言ってみて、反応を確かめる。
しかも、DVめいた発言をしてやいないか?それでも、彼女は父親のもとに帰らずに済むから、我慢しているのだろう。

彼女のそんな状況を、実家に耐えかねている私の境遇と重ねた。
私も、ステイホームと言われ大人しく実家にこもっていたが、いい加減我慢の限界だった。緊急事態宣言で安いファミレスやカラオケ店も開いていない。
狭い実家に逃げ場所はない。いつ酒に酔った父親に絡まれるかと怯えるのも、もううんざりだった。

だから私は電話の向こうで、まだ終わっていないだろう家飲みにも戻る気になれず、近所のドラッグストアの広い駐車場で途方に暮れていた彼女に言ったのだった。ほとんど衝動的に。
「そんな男の家、出ちゃえよ。私と家を借りて一緒に暮らそう」
彼女に言ったその言葉をきっかけに、私も家を飛び出してやった。

私たちの敵、それは女1人では安心して生きさせてくれないこの世の全て

シスターフッド、それは同じ敵の前では連携してみせる、私にとっては新しい女同士のあり方。
私たちの共通の敵はもちろん、女1人では穏やかに生きさせてはくれない今の世の中全てだ。社会に出ていない学生で、お金はなく、かといって実家にはこれ以上居られない。
どうしようもなくなった時フッと頭をかすめる「恋人に頼ればもしかして今すぐに家を出れるかも」。そんな甘い考えは、2年付き合った彼氏とのあっけないさよならでサッサと捨てた。
恋人同士が、ずっと続くわけじゃない。今すぐ家を出られたとて、その後が続かなければどうしようもない。
恋人ではない人のところに転がり込んだって、相手が自分を1人の人間として尊重してくれるとは限らない。家出少女が犯罪に巻き込まれるケースは多いという。

こんな今の世の中で私たちはきっと、女1人では今の気ままで愉快な生活を勝ち取ることはできなかった。2人だから、共闘したから、得られたこの生活は、ずっと欲しかったものだった。
偶然が重なり生まれた連帯を、これからも大事にしていきたい。