幼い頃は、両親に対して、結婚しなければよかったのにって何回も思った。「クソジジイ!」「クソババア!」と週に二、三回は怒鳴りあう両親。私は長女。泣きじゃくる妹と弟を二階の部屋に先導したり、両親をなだめたり、「余計な事言うな!」と私が怒られて泣きじゃくったり。泣きながら家を飛び出してお気に入りのソフトクリームを食べに行く母。「お母さんたちが離婚したらどうしよう」と言って泣く妹と弟を、私は「大丈夫大丈夫、いつものことだから」となだめながら、「あの二人はどうして結婚したんだろう」と思わずにはいられなかった。共働きな上に子だくさんで、家庭を回していくのが大変なのはすごくよく分かった。
主な喧嘩の原因は家事の分担だった。父は洗濯や掃除など一般的な男性に比べて分担している方だったようだが、やはり家事の中では食料調達と料理が一番大変で、子どもたちがお手伝いしているとはいえ、母は大変だったんだと思う。それを言葉にすればいいんだけど、両親はもやもやとした不機嫌をボールのように投げつけ合っているばかりだった。
父は母とのコミュニケーション自体を諦めることで、衝突を避けていた
子どもが大きくなるにつれて家事の分担をしっかり担えるようになり、両親の喧嘩の頻度は減った。というか二人の会話が少なくなった気もしていた。決して仲が悪いというわけではないんだけど、いつか父が「お母さんには何を言ってもしょうがないから」とつぶやいていたのを聞いた。父は母とのコミュニケーション自体を諦めることで、衝突を避けていた。父は二階の部屋で、母は一階の部屋で過ごすことが多くなっていた。
私は、地元を離れた。東京の大学に進学した。いろいろな理由があったけど、正直なところ、実家を出たいからという気持ちもゼロではなかった。経済的に無理なく上京できたのは両親が共働きしてくれたおかげ、感謝しかない。
久しぶりにビデオ通話をすると仲の良い父と母の姿があった
上京して、数年が経った。最近、家族のLINEグループには両親が二人で近隣を旅行している写真がよく送られてくる。お互いを写真に撮りあって、楽しそうだ。
ある日、私がビデオ通話を実家につなぐと、両親がソファに並んで座っていて、私と話しながらじゃれ合ったりしている。
「え、お母さんとお父さん、めっちゃ仲良いじゃん!」
私がそう言ったら、父は言った。
「お父さんも成長したんよ。昔は、悪かったな」
父と母の「成長」と兄弟の笑顔に感じるしあわせ
父は、成長したらしい。昔、夫婦でよく喧嘩していたことを、子どもたちに悪いことしたなと思っているらしい。すごく嬉しくなった。50歳を超えて、自分を反省的に見つめ直して、変化しようと思えるって、すごい。幸せそうな両親。二人の子どもでよかった。
このやりとりの数ヶ月後に帰省したら、父も母もきょうだいたちも本当によく笑っていて、もちろん私もいっぱい笑っていた。
もしこの社会に結婚という制度がなければ、父と母が結婚という契約を結んでいなければ、二人は多分とっくの昔に別々の道を歩んでいたんじゃないかと私は思う。もしそうだったら、父の「成長」も、家族みんなの笑顔も、存在していなかっただろう。ああ、二人が結婚してくれてよかった。