高校2年生の春。隣の席男の子に恋をした私は、常に恋をしたがっていた
あれはわたしがまだピカピカのセブンティーンの頃のことだった。
ピカピカという修飾語をつけたのは、高校2年生になってすぐの新学期初日に起こった出来事だったからである。
隣の席に座っていたのは茶色い癖毛が特徴的な制服を着崩した男の子だった。彼は背が高かったが、なんだか顔に気怠げな愛嬌があった。
新学期、すなわち春。浮き足立つ季節。そのふわふわした足取りは好転することもあれば大抵は後悔の記憶となる。高校生の春なんて青臭くてしょうがない。もうすでに恥ずかしくて舌を噛み切りそうだ。
彼の机を横目で見たら、ふなっしーのぬいぐるみ型の小銭入れがつぶらな瞳をこちらに向けていた。ふなっしーと目があった。恋に落ちてしまった。
わたしは死ぬほどチョロかった。常に恋をしたがっていた。
高校生のわたしは毎日恋に憧れていたし、少女漫画は定期購読していた。あと、その頃は中学時代に片想いしていた人に振られたばかりだった。
かわいかったんだよ。ふなっしーのぬいぐるみをこっちに向けてよだれ垂らして寝てる男子が。
恋に暴走していた私の片想いは、彼に彼女ができたことで終焉を迎えた
今思い返せば彼の中身とか人間性を一個も見ていない。まわるまわるメリーゴーランド?恋する暴走木馬である。なんなら敷かれたレールを突き抜けて一人で踊ってた。
周囲から見たら恋に恋して舞い上がるわたしの姿はバレバレで、おそらく影で馬鹿にされていただろうなと思う。男子たち、ひそひそ話すその声聞こえてるんだよ。
隣の席の彼はよく寝てた。よだれをすごい垂らしていた。わたしはそんな彼にティッシュをあげた。次第に彼はわたしにティッシュを求めるようになった。ここにティッシュを貢ぐ女が誕生した。
結果的に、ティッシュを貢ぐ片想いは彼に彼女ができたことで終焉を迎えた。暴走木馬にブレーキをかけるにはそれで充分だった。
今思い返せば、貢ぐものが駅前で無料で配っているティッシュだけで済んでよかったのかもしれない。舞い上がってまわりが見えずにいた当時の自分の態度を思い返すと死ぬほど恥ずかしいし衝動的に舌を噛み切れたくなるけれど。
自己完結の恋愛は、そのまま羞恥心という鍵を固くかけて何事もない顔をして高校を卒業した。
大学生になり付き合った彼の眼差しは優しくて、大人になれた気がした
大学生になったわたしは、自分の好みとは正反対の容姿の、趣味と価値観がパズルのようにピッタリ合う男の子と付き合いはじめた。
成人式の日、彼はわたしの振袖を見るためにわたしの地元まで来ると言った。
母のお下がりの振袖を着て、自分で選んだ赤いかんざしをつけたわたしは成人式の会場に向かった。式に出るというよりも、久々に会う友達と交流をはかることに重きを置いていたわたし達はホールの目の前の空き地にたむろしていた。
小中学校のころの友達とだらだら話していた時に、高校時代片想いしていた男の子が目の前を通り過ぎた。思わず目で追った。でも話しかけなかった。度胸がなかった。
なんとなく二十歳になった彼の横顔が頭の隅に残りつつ、家に帰った。ほどなくしてやってきた彼氏に振袖姿を見せた。彼はわたしの振袖姿を絶賛した。
振袖を脱いで彼氏とわたしの家族とで餃子を包んだ。晴れの日のご馳走は我が家の餃子だった。
微妙に餃子の包み方が間違っているわたしに彼氏は餃子の包み方を教えた。優しい彼の声音と眼差しを見て、好きだなと思った。
人の目を見て好きだと思えるようになったわたしは、成人の日にほんの少しだけ大人になったのかもしれない。