こんな事を書いたら、驚かせてしまうかもしれないけれど、私は、裏切る良さもあると思っている。
「無難だから」といつも手に取るパンの前で、動きが止まった
パンが食べたくなってパン屋さんへ足を運んだ。
辺り一面に小麦色が広がる空間は、その場に立って居るだけで、穏やかな気持ちになれるから不思議だ。
甘いスティックパン、四角いフレンチトースト、可愛らしい丸い形をしたキャラクターのパン。端から順番にちょこんとお行儀良く並んでいる色とりどりのパンを、どれにしようかなと悩みながら見ていく。
食べたい気持ちはあるけれどなかなか決められない。豊富な種類がある中で、無難だからといつも手に取る砂糖がかかった136円のスティックパンの前で動きが止まり、隣に並んでいる260円のフレンチトーストをちらりと見た。
ぶよぶよになるし、焦げるから滅多に作らないフレンチトーストにしようかなと心中で決めた数秒後に、やっぱりと手に取ったのは、今日もまた136円のスティックパンだった。
いつもそう。
眠る前に後悔や言い訳をする「お決まり」を繰り返している
友人と数ヶ月ぶりに会った日の昼食でも、メニュー表を見る時だけは、シビアになる。食べたいから食べていると言うよりは、無理矢理これが良いと納得させている状態だった。
そんな食事を心から美味しいと思えるはずもなく、眠る前に「やっぱり食べればよかった」と後悔や言い訳をする「お決まり」を繰り返している。
加えて、お洋服を雑に着こなすのも上手になった。いつからか、心を歪ませる行動が得意になり、1円でも多くお金を使う事に罪悪感を抱くようになっていた。
ふと、家でぽつんと食事をしていた光景を思い出す。現実逃避と寂しさを紛らわす為に付けたテレビから、不意にお昼の元気な声が勢い良く飛び出して来て、顔を歪ませながら音量を下げた。そのまま、ペンギンみたいにとぼとぼと台所へ向う。
食欲も自分の為に料理をする気力も意味も無いまま、とりあえず、ひと口サイズのおにぎりを1つだけ作った。白い塊をじっと見つめてから口へ運ぶ瞬間、米粒がプラスチックに見えて、何を食べているのかよく分からなくなった。
昼食終了。本音をひた隠し、無理を繰り返した反動で、私は、廃人同然になっていた。誰かの役に立つ訳でもなく、むしろ迷惑しかかけていない私には、これがお似合いだと、こうする事が正しいと、真剣に心の底から思っていた。
美味しく食べる事は生きる事。心に素直でいる事は、自分が大切な証
こんな状況から抜け出すべく、まずは、お腹を満たす為だけの3食を改めようと思った。
慣れ過ぎたお料理に一手間加えてみたり、味を意識して完食したら、段々と心が満たされていくのが分かった。
楽で、目立ちもしない、とりあえず着てるだけのお洋服は、1週間のうちの1日だけでも、堂々と前を見て歩けるくらいの組み合わせで着るように意識する事から始めてみた。
お洋服を変えたら、ほんの少しだけ長く他人と目を合わせられる様になって驚いた。いつまでも選ばなかった方を気にしてみたり、わざと苦しむ方へ歩き出そうとするこの徹底的に自分自身を追い込む悪癖は、一見、思いやりにも見えるけれど、自分もあの人も傷付けていたのだと後になって気付いた。
誰の事も大切に出来てはいなかった。ぞんざいな扱いばかりを繰り返し心を貧しくするのも、大丈夫にするのも自分次第なんだと思った。可哀想なんて思われたくないのに、いつの間にか、「可哀想」なふりに一生懸命になっていた。
いつもならしない事をしてみる。自分を嫌いに思う瞬間を1回でも減らす為に変わっていきたい。
「どうせ、今日もまたいつもの選ぶんでしょ?」
お決まりの私の期待をスパッと裏切った時、自然と呼吸がしやすくなった。美味しく食べる事は生きる事で、心に素直でいる事は、自分を大切にしている証だと思った。