裏切られた痛みは頭にこびりついている。
裏切った痛みは心に重くのしかかっている。
「私、いじめられています」
そう私を名指ししたのは親友だった。
もう誰も信じられなくなった。親友は「親友」じゃなくなった
親友とは小学校で仲良くなった。
「親友」と呼ぶようになったのは小学5年生の時。提出する日記に私への手紙を書いてくれたのを、担任が私に渡してくれた。そこに書かれた「親友」の文字が、私には特別に見えた。その手紙はずっと宝物だった。
2人で続けた交換日記も宝物だった。毎日学校で一緒にいるのに何をそんなに話していたのだろう。お互いに携帯電話を持ってからはメールも頻繁にするようになった。
時には喧嘩もした。
でも、私たちは誰が見ても文句を言えないほど「親友」だったと思う。
中学校に上がってからもずっと私たちは「親友」だった。
ある日私は突然、今まで「入ってはいけない」と言われていた応接室に呼び出された。
部屋に入ると怖い顔をした担任の先生と、私と仲が悪かったクラスメイトと、親友がいた。
そして言われた。
私が彼女たちをいじめていると。
訳がわからなかった。
もちろん「そんなことしていない」と必死に説明した。
でも頭も心もぐちゃぐちゃで、ちゃんと伝わったのかはわからない。
先生はずっと怖い顔をしていた。
クラスメイトは私を睨んでいた。
親友は下を向いて泣いていた。
私はもう誰も信じられなくなった。
親友は「親友」じゃなくなった。
裏切られた痛みは忘れられない。脳裏に焼きついて消せない
他にも友人はいたが、かばってくれなかった。
皆ただ遠巻きに見ているだけ。
あの子達と一緒に私の悪口を言う子もいた。
ますます誰も信じられなくなった。
今思えばあの子は、親や先生の関心を引きたかっただけなのだと思う。
それでも裏切られた痛みは忘れられない。
脳裏に焼きついて消せない。
ずっとずっとヒリヒリとした痛みが引いてくれなくて、私は「人を信じる」ということがわからなくなった。
この話をすると皆、「辛かったね」と同情してくれる。
でも私は忘れちゃいけない。
私は被害者じゃない。加害者でもある。
先輩が怖くて怖くて、喉まで出かかっているのに何も言えなかった
知り合いがいない高校で私は、茶道部に入部した。和やかで和気藹々としていて楽しかった。
私たちの茶道部では学校説明会の日に合わせてお茶会を開いていた。
学校説明会は年に数回あり、その回ごとに来校者の数は違う。ある程度予想は立てておくものの、用意したお茶菓子が余ってしまうことも多い。
そんな時は終了後、私たちの口に入る。おこぼれをもらいに来る生徒会の生徒もいて、一仕事終えた後の空気が好きだった。
お茶会に慣れてきて気の緩みもあったと思う。
その日は明らかにお菓子が余っていた。もう説明会は終わりそうな空気で、私たちは暇を持て余していた。
「お菓子食べちゃおうか」と言い出したのは誰だったか。
裏で待機していた私たちは、悪い事だとも思わずにお菓子を食べた。
しばらくしてもう1人同級生が来た。
「あなたも食べる?」と渡すと、その子も食べた。
その姿を先輩に見られてしまった。彼女だけ先輩に怒られた。
背中を丸めて謝る彼女を見て、「私たちも食べたんです」と言いたかった。
でも、先輩が怖くて怖くて仕方なくて何も言えなかった。喉まで出かかっているのに言えなかった。
彼女は笑顔で話してくれるけれど、友達でい続けていいのだろうか?
帰り際、重い空気の中で「何も言えなくてごめん」と私は小さな声で謝った。
彼女が何と返したのかは覚えていない。
一緒にいた他の同級生はずっと黙ったままだった。
あの時何も言えなかった弱い自分が嫌いだ。
裏切ってしまった自分が憎い。
今も彼女は笑顔で話しかけてくれる。
でも裏切った私が彼女の友達でい続けていいのだろうか?
謝ったら優しい彼女はきっと許してくれる。
でも私は私を許せない。許しちゃいけない。
裏切ってしまった痛みを忘れられない。
あの時言えなかった言葉が喉に詰まって苦しい。
ずっとずっと心にずしんと重くのしかかる痛みを、私は一生抱えていかなければならない。
裏切られた痛みと裏切ってしまった痛み。
いつか誰かを守れたなら、その痛みは和らぐだろうか。