裏切られたと思っているのは、きっと私だけかもしれない。
しかし、当時の私にとって、あれは「裏切り」だった。

新しいクラスで、ババ抜きを始めていた不思議な彼に惹かれていった

高校二年生の春、クラス替えがあったため、新しいクラスからのスタートだった。
仲の良い友達はできるだろうか、クラスに馴染めるだろうか、担任の先生はどんな人だろうか……。
たくさんの不安と少しの期待を抱いて、教室に足を踏み入れた。

私は驚いた。なぜならば、私の席の周りの三人が既に着席していて、みんなでババ抜きをしていたからだ。
仲良くなるの早すぎじゃない?というか、学校にトランプ持ってきてる人初めて見た……と頭の中でいろいろ考えていると、トランプの持ち主らしき人に「一緒にやる?」と声をかけられた。

咄嗟に頷いてしまい、ババ抜きをしながら、自分の中で確信した。
クラス替え直後の教室でいきなりババ抜きをしちゃうような、いかにも不思議ちゃんのオーラをまとっていて、しかも初対面の私にフランクに話しかけてくれる優しさを持っている彼に一目惚れしてしまったことを。

その後、彼と話すたびに、彼の不思議で、謎に包まれた雰囲気に惹かれていった。
なんでそんなに不思議な行動をしているのか知りたい、私だけに教えてほしい……どんどん彼に近づきたい気持ちでいっぱいになった。

皆が知っていたはずの恋なのに、友達が彼に告白。付き合うことに…

私は、自分の気持ちが顔や態度に出やすいタイプだったこともあり、好意が伝わってしまっていたのかもしれない。彼と仲良くなるのに時間はかからなかった。
授業で分からないことがあったらラインで教えてもらったり、名前で呼んでもらえるようになったり、私にだけマジックを見せてもらったり……。

クラスメートにも、彼といい感じだね!と冷やかされることが何回かあり、私は完全に舞い上がっていた。
友達に相談したり、彼のことが好きだと公言していたことから、クラスの女子はみんな私の気持ちを知っていたと思う。

しかし、高校二年生の秋、衝撃的な出来事が起こった。
同じクラスの友達が、彼に告白し、付き合うことになったというのだ。
そのことを人づてに聞いたとき、心の中が凍り付いた気がした。
あまりの驚きと悲しさに、涙はすぐに出てこなかった。とにかく一人になってふさぎ込みたくなった。

それからは毎日が苦痛で仕方なかった。
教室で仲良く話している二人、彼の上着を借りて羽織っている友達……。
見たくなくても、目に入ってきてしまった。
毎日お風呂で涙を流す日々が続いた。私だって、こんなに好きなのにどうして、この気持ちをどうしたらいいのか分からなかった。

突然の彼からのライン。会わない選択をした私が学んだ2つのこと

それから一年ほどだろうか、見て見ぬふりが慣れてきたころ、二人が別れたらしいという噂を耳にした。
その後しばらくして、ずっと連絡が途絶えていた彼からラインが送られてきた。二人で映画を見に行こうという内容だった。

しかし、不思議と彼と会いたいという気持ちは湧いてこなかった。
その時にやっと気づいた。
私が、彼と友達が付き合っているのを見るのがつらかったのは、彼のことが大好きだからではない。彼にも、そして、友達にも裏切られたと思ってしまっていたからだ。

私は彼と付き合ってた訳でもない、しかも、告白した訳でもない、でも、それでも、友達が抜け駆けして告白して、二人が付き合い始めたことに対して、なんだか裏切られた気持ちでいっぱいになってしまったのだ、と気づいた。

この経験を通して、私は二つのことを学んだ。
一つ目は、自分の見てる世界は自分にとって都合の良い色で見えているということ。
私は、彼といい感じの雰囲気になっていたと認識しているけど、あくまでもそれは私の主観であり、傍から見たらどうかは分からない。

二つ目は、好きという気持ちはいつしか執着に変わり、自分の気持ちが見えづらくなるということ。彼と友達が付き合っている間、彼のことが大好きだから、二人のことを見るのがつらいと思い込んでいた。

しかし、実際二人が別れた後にそうではないことにやっと気づいた。
好きという恋愛感情はとても強いものだから、他の気持ちが隠れてしまいがちなのだろう。

今後は、この二つのことを意識して、恋愛しようと改めて誓った。