中学校の通学路上にあったローソンの一角、小さな化粧品コーナー。
そこで、人生で初めての化粧品を購入した。黒の、繰り出し式ペンシルアイライナー。
もう十五年以上前の話だ。

当時のメイクの流行りは、「デカ目」であることが何よりも最重要で、いろいろな雑誌がこぞってどうやって目を大きく見せるのか、に重点を置いた記事を掲載していた。

「デカ目」になれば「美人」になれると信じていた中学生の私

その流行は、思春期真っ只中の中学生で奥二重の私に、どうにかして目を大きく見せなければ美人になれない、という気持ちにさせるには十分な影響力を持っていた。

「アイライナーが一番デカ目に必要だよ☆」と雑誌のメイクページに書かれていた煽り文を頭に浮かべながら、七百円程の値段だったそれをレジまで持っていき、会計を済ませて店を出た。
ローソンから自宅まで十五分。帰宅すると、着替えもそこそこにセブンティーンと手鏡を引っ張り出す。

メイクページを開いて、書いてある手順通りに肘をテーブルに置き、揺れないよう固定した後、アイライナーで目の上をゆっくりと、隙間を埋める様になぞってみた。
まじまじと、初めて化粧を施した自分の顔を確認する。

引いていない方の目と比べると、なんだか目が大きく見えた。
ただそれだけで、なんだか世の中の「美人」に近づいた気がした。

その日から、マスカラやリキッドアイライナー、アイシャドウにカラコン、メザイクに付けまつげなど、あらゆるメイク道具をかき集めて、目を大きく見せることに力を注いだ。
そうすれば、「美人」になれると信じていたから。

コンプレックスを強調するメイクなのに、いつもより美人に見えた

ある日、私のような切れ長の目を持つモデルさんを雑誌の中で見つけた。
「デカ目」じゃないのに綺麗な人だな、と思った。

パラパラとページを捲ると、その人のメイク手順を紹介するコーナーが目に留まった。
そこには、「目尻を強調したいから、つけまつげは目尻だけ」と書かれていた。

翌日、それまで愛用していた目尻から目頭まで覆うつけまつげから、目尻側のみのものへ変えてみた。
すると、コンプレックスだった切れ長の目を強調しているのに、自分の顔がいつもよりも美人に見えた。

きっとそれが、違う誰かに自分の顔を近づける手段だったメイクが、自分の長所を活かすメイクに変わった瞬間だったのだと思う。
そこからはデカ目メイクをやめて、自分の目の形を強調するメイクが定番となった。

チャーミングポイントを活かすことが、本来の魅力を引き出してくれる

不思議なことに、年を重ねる毎にメイクが段々と薄くなっていく。

SNSの普及と共に、世の中の美の定義が多様化したことも大きな要因だと思う。
「頑張り過ぎずに自分の顔を活かす」ことが流行になるなんて、あの頃の私が聞いたらどう思うだろう。

顔の一部と化していたカラコンにメザイク、つけまつげはもう何年も付けていない。
自分の素顔をより魅力的に見せてくれるメイクを心掛けるようになってから、素直にメイクが楽しいと思える。時間も短縮できるし、何より幸せだ。

自分のコンプレックスを隠すことよりも、チャーミングポイントを活かすことが、その人本来の魅力を引き出す。
何もメイクだけに当てはまるものではない。それは、どんなことにも適用される法則。

二十代最後の日に気付いたこの法則を、三十代、四十代、五十代、否、生きている限り、きっと忘れない。