モテたいとまでは言わないけど、誰かに言い寄られる経験をしてみたい

最後に恋人がいたのは、5年以上前になる。大学時代という花盛りは、恋愛せずに終わってしまった。

好きだった人はいた。留学するその人に「帰ってきたら付き合っちゃう?」と言われ、舞い上がった。1年以上待ったが、帰ってきた彼には、すでに彼女ができていた。
思い返せば、これまでの人生で、告白されて恋が始まった経験は一度もない。恋愛関係になったのは、私が告白したから。恋愛に発展しても、私がLINEして、デートに誘い、予定を立てる。何をするのも私からで、相手がアプローチしてきたことは全くなかった。

モテたいなんて言わないけれど、私だって誰かに言い寄られる経験をしてみたい。しかし、もはや恋の季節は訪れる気配さえない。
私に恋が始まらない理由。それは、私に“女性として”の魅力が足りないから。髪にキューティクルがないとか、コミュニケーション能力が低いとか、外見も内面も。
男性が求める“女性として”の美しさや振る舞いが欠如しているのだ。

男性ホルモンが基準値より多い。私って本当に女性?

長らくそう思ってきたが、私に恋が始まらない理由は別にあった。
婦人科で血液検査したところ、男性ホルモンの値が基準より多いとわかった。

確かに、喉仏ははっきり出ているし、髪も顔も全て毛は多いし深い。私は社会的な“女性として”の魅力が足りない以前に、生物学的に女性らしさが少なかったのだ。男性から恋愛感情を抱かれないのは、本能の問題だったことになる。

とあるトランスジェンダーの方は、男性時代から男性ホルモンの量が非常に少なかったという。あるとき、女性ホルモンが増えたことで女性としての自己に気づき、トランスジェンダーとして生きることを選び、今に至ったのだそう。
それを知った私の頭の中では、一つの疑問が渦巻いた。私って本当に女性なの?

それでも、私は恋がしたいし、結婚だってしたい

こういう悩みが湧きあがることは、これまでもあった。
20代も半ばを目前にすれば、友だちとの会話で自ずと結婚が話題になる。
「20代のうちに子どもは産みたいよね」「そのためには、早く結婚相手を見つけないと間に合わなくなっちゃう」と話す友だちに、私は同調できなかった。

私だって結婚はしたい。けれど、子どもが欲しいと思ったことはない。私には母性というものがないの?私には“女性として”生きていく資格がないの?“女性として”のアイデンティティの揺れが付きまとうようになった。
性的指向、つまり好きになる相手は変わらず男性だけれど、性自認、つまり自分の性別は女性のままでいいのだろうかと。

生物学的に男性の要素を持つと知って、“女性として”生きていくことに、一段と苦しさを覚えるようになっている。社会的に魅力ある女性になれない自分に、恋することができる日は来るのだろうかと考えてしまうのだ。そのたびに将来へ一抹の不安を感じる。

それでも、私は恋がしたいし、結婚だってしたい。自分に合う男性と出会って、恋をして、生きたい。
社会的な“女性として”の魅力はないかもしれないけれど、私の人間としての魅力を認めてくれる人に出会いたいと、今は思っている。