過去の恋は、まるで魚の骨みたいだ。喉の奥に引っかかって、なかなかとれてくれない。大して太くもないくせに、チリチリと痛む。これこそが、私の恋が始まらない理由。

同じサークルの彼と私は、いろいろ話せる関係で、惹かれて恋をした

「後輩の女の子に告られた。ずっと好いていてくれたらしい。ごめん、だから彼女と付き合う」突然、彼が私にそう言った。頭が真っ白になった。数日前に私にした告白は? 一体それは、何だったのだろうか。

彼に恋し続けて、かれこれ5年。きっかけは、大学の写真サークルだった。爽やかな五月晴れで、心地よい風が吹き抜ける部室。「18切符で旅がしたいなぁ」と、私は小さくぼやいていた。

そんな私の誘いに彼は乗ってくれた。東京~静岡~名古屋~京都~大阪と、鈍行列車に揺られて、お互いが好きなアーティストのライブに行った。そのまま電車と船を乗り継ぎ、カメラを片手に2人で島を旅した。ゆったりした時間の中で、私は彼に徐々に惹かれて恋をしたのだ。

大学2年生の夏、私から告白した。返事はもらえなかった。諦めるしかないと腹をくくり、数ヶ月後、私は別の人と付き合い始めた。けれど、そのことを彼が後悔していると後で噂で聞いた。

違う人と付き合っても、結局、私は彼のことを忘れられなかった。大学4年の春、私は再び彼に告白した。返事は「試しに付き合おう」だった。「試しに」って何だろうか。でも、とても嬉しかった。それからしばらくは、本当に楽しかった。

好きな音楽の話、写真の話、悩んでいることもお互い話せる関係だった。カメラ片手に散歩をして、写真を撮り合った。夢も語り合った。恋人というよりかは、親友のような家族のような存在だった。けれども、就活ですれ違い、別れてしまった。

彼から告白されて臆病になっていた私をよそに、彼は後輩に奪われた

卒業後、サークルの集まりで再会する。やはり学生時代と何も変わらず、何でも話せた。一緒にカラオケに行ったこともあった。私の好きな唄を歌う彼の声が、誰よりも好きだなと自覚した。そう、私はやはり彼を好きなままだったのだ。

大人になってしまった私は、無邪気でストレートなカッコいい告白はもうできない。彼のことで傷つくことが怖かった。今度は、遠回しに告白した。やはり、保留にされてしまった。

私と彼はそういう関係なんだ、と割り切る覚悟した。それでも、この関係は居心地が良かった。

その1ヶ月後、彼から告白された。嬉しいより、また傷つくのではないかと怖さが勝ってしまった。いつからこんなに臆病になってしまったんだろう、決断する時間が欲しかった。ほんの3日間だった。

しかし、その最中、彼は可愛らしいあの子に盗られてしまった。一体、本当に何だったのだろう。私はこのやるせなさをどこにぶつけたらいいのだろう。私に対してなのだろうか。3日で心変わりした彼なのだろうか。それとも、「前髪しかない」と言われているチャンスの神様なんだろうか。これが私が彼と過ごした時間の全てだった。

私が撮る彼の写真は後ろ姿ばかり。ずっと追いかけているのは私だけ…

それから3年経った今、街中で彼と同じような背格好の人を見るとドキッとする。似た声を聞くと振り返ってしまう。なかなか捨てられない写真を時々見てしまうけれど、私が撮る彼の写真はいつも後ろ姿ばかりだった。ずっと追いかけているのは私だけなんだ、と改めて思い知る。

いつかまたどこかで偶然出会えたら、また恋が始まるのだろうか。年齢的にもう無理だろうか。彼は、あの子と結婚してしまうのだろうか。時々ドロドロとした感情が、私の胸を満たす。

彼との恋は、いつまでも私の中に居座り続けている。まるでとりたくてもとれない、喉に刺さった魚の骨だ。本当はもう忘れてしまいたい。私だってもういい大人だ。いつまでも学生時代の延長の恋に浸ってなんていられない。

けれども、なかなかとれない彼との恋が、「忘れるな」と言わんばかりに痛むから、私の次の恋はなかなか始まらないのだ。