「学生時代から付き合っている男を手放すな」

わたしが大学生の頃に、周りの大人から口酸っぱく言われた台詞だ。でも、社会人になってすぐに学生時代から付き合っていた男の子との恋愛を手放してしまった。

この文章を書いている今、わたしは29歳だ。この年齢になると少し分かる気がする。確かに冒頭の台詞は的を射ている。特に20代後半は日々が仕事のタスクで溢れかえっていて、恋愛が入り込む隙間はほとんどなかった。

マッチングアプリを始めて2年。いまだに恋は始まっていない

27歳の時に、ふと思い立ちマッチングアプリを始めることにした。なんとなくマッチして、モテているような錯覚に陥った。

でも、いまいちモチベーションは上がらないし、仕事は忙しいし、やっぱり恋愛の優先順位は低かった。アプリの存在をふと思い出し、1週間ぶりに連絡すると「あなたみたいなマイペースな人とは合わないと思います!」と返信が来た。

どうもご指摘ありがとうございます!

こんな調子なので、マッチングアプリを使い始めて、もうすぐ2年経つけど、いまだに恋は始まっていない。恋人のいる後輩に急かされても、ゴリラのマウンティングだと思ってかわしてきた。

マイペースなのかこじらせているのか分からない。もはや恋が何なのか分からなくなっているので、マッチングアプリで出会った男の子の話を書いてみようと思う。LINEのアイコンがチコちゃんだったので、チコちゃんと呼ぶことにする。

アプリで出会った男の子と始めたLINE。楽しい日課になっていた

チコちゃんは4歳年下で会社勤めをしている男の子だった。
夏の終わりにLINEでやり取りを始めた時は、連絡の頻度について尋ねられた。「忙しさ次第なので、そんな言われ方をしても……」とわたしは返信している。
他のトークでも興味のなさを隠しきれていない。けれど、次第にチコちゃんとのLINEのやり取りが楽しくなっていった。

刑事のように裏をとってみると、わたしはクリスマスの前から、他の男の人と連絡を取らなくなった。チコちゃんとショッピングモールで買い物したり、イルミネーションを見に行ったりした。コロナで会えない日が続く時にはオンライン飲み会だってしたのに……。

初夏になると、チコちゃんは部署が変わった。「仕事が忙しくて……」が口癖になっていった。紫陽花が咲く時期に会ったチコちゃんは、今までと変わらないように見えた。
空港まで迎えに来てくれたし、一緒にマルゲリータを食べて笑い合った。

でも、楽しい日課だったLINEのやり取りは確実にペースダウンしていった。3日おきになり、1週間おきになり、最終的には未読スルーだった。
わたしも仕事が忙しいタイミングで表面的には忘れたふりをできた。でも、消化しきれないモヤモヤが心の奥底に残っている。

わたしは自分の幸せに対して、あまりにもボーッと生きてきすぎた

上手くいかなくなった理由は分からない。タイミングが悪かったのかもしれない。
素直なチコちゃんはわたしの癒しだった。でも、表面的なやり取りばかりで、自分の面倒くさいところや格好悪いところを見せる気なんてなかった。そして、チコちゃんの面倒くさいところや格好悪いところを見つめる気もなかった。

恋愛は幸せの一つの形に過ぎない。恋が始まるか始まらないかはさておき、わたしは自分の幸せに対して、あまりにもボーッと生きてきすぎた。
恋愛に限らず、もっと自分をさらけ出せたら、楽に呼吸できる気がしている。

そういえば、この文章を書くために、LINEのトーク履歴を見直してみたら、やっぱり未読スルーのままだった。そして、アイコンがふなっしーに変わっていた。
アイコンをチコちゃん→ふなっしーに変える、その心は?

聞いてみたいけど、もう聞けない。