「これなんて言って買ったか知ってる?」
それは23歳の誕生日。
自分には縁遠いと思っていた一流ブランドのワインレッドの口紅にキャッキャしている私は、考えることもなく、
「んー知らんー」
と、答えた。
すると彼は自慢げに、
「写真見せてな、この子に色気がつくリップくださいって言ってん」
と、続けた。
「めっちゃ面白いやん、ソレ」
私は笑いながら適当に返した。
これが初めてリップを貰った時の会話である。
社会人になり、”可愛い”だけでは生きていけないことを知った
薄めのナチュラルメイクに明るく染めた髪、不自然な位置に濃いめに入ったオレンジのチークとは反対に色のほとんどつかないリップを塗り、"幼い少女"のように作り上げていた学生時代の私。
"可愛い"だけを求めていた私は社会人生活を経験したことにより、可愛いだけでは生きていけないことを知った。
特に仕事上においては、可愛く・幼く見えない方が圧倒的に有利だ。同じ話をしていても説得力が違う。
また、普段買い物をするにしても、薄いメイクでは声をかけられないのに、たまにきっちりメイクをしていくと、きちんと対応してもらえたりする。
色気のある女性になりたい。メイクを変えたら、自分に自信がついた
徐々に見た目の大切さに気づいた私は、次第に、"強く凛とした"見た目になりたいそう思うようになり、気づけば「色気のある女性になりたい」が口癖になっていた。
色気があるから強いわけじゃないし、強いから色気があるわけではない。
それでも、アンジェリーナ・ジョリーやアン・ハサウェイなど私のイメージする強い女性は、みんな色気があった。
暗色のロングヘアに跳ね上げたアイライン、きっちり塗られたの口元リップ。
そんな女性になりたいと思った。
そんな私の変身を手伝うべく、彼は私への誕生日プレゼントに今までつけたことのないような、濃い色のリップを選んでくれたのだ。
試しにつけてみると、他のメイクが負けて妙にリップが浮く。
それでも彼のくれたリップを塗りたくて、リップに合うようなメイクを研究するようになった。
不思議なことに顔自体は何も変わっていないのに、メイクを変えたことにより、印象がぐんと変わった。
それと同時に自分に自信がついた。
"私は強い女性だよ"。ワインレッドのリップは私のおまじない
濃いリップを塗った私は、強い女性に思えたし、何にも物おじせずに立ち向かえた。
逆にリップを忘れた日は、急に戦闘力が落ちたような気がしてソワソワしたし、ここぞという勝負どころは、ワインレッドのリップを塗ることにより、"大丈夫だよ、私は強い女性だよ"そう思うことができた。
最初は、"大切な彼がくれたリップ"がお守りになっていたからかもしれない。
それでも時が経ち、自分自身でワインレッドのリップを買うようになった今でも、リップを塗るという行為が、私自身に大きな自信を与えてくれる。
最近はマスク必須でリップの必要性を失いかけているが、それでも大切な日にはきっちりリップを塗り、鏡に映る自分に"私は強い女性だよ"とおまじないをかけている。