ある統計によると、世の中の女性の半数は男性から、キスマークをつけられたことがあるらしい。
かくいうわたしは、今の今まで、友達が「あの子、キスマークつけて出勤してきてる」という言葉に対しても、どれが虫刺されで、どれがキスマークなのか判別がつかないほど無知で、キスマークをつけられたことのない側の人間だった。

彼氏いた事ないイコール年齢、デブで出っ歯で、がさつでらモテない、異性に興味ないキャラのわたしは、これからも、ずっとキスマークをつけられたことのない側に属していると思っていた。

初めてのキスマーク。どうやって会社に行ったらいい?

そんな、わたしがキスマークをつけられた。
これは、おどろき。
きっと、わたしの長年の友人も、両親も、同僚もびっくりするだろう。
もう、一生処女でモテないキャラでやっていくことを覚悟していたのに。
恋愛や、処女の脱出手前の出来事は、こうもっと、前兆があって、ゆっくりとやってくると思っていたけれど、20代中盤に乗りかけたわたしに、突如やってくるとは。人生とはわからないものだ。

モテないキャラのわたしはこの数ヶ月で、突如彼氏が出来て、気づけばそーゆー流れになり、果てには、首元に濃いキスマークまでつけられた。
つけた本人は言った。
「つけるつもりなかったんだけどさ、つい、つけちゃったんだ。もう、絶対しないからごめん。許してほしいんだ」
これを、つけてどうやって会社に行ったらいいんだよ。怒りが少し生じるが、まあ、つけるつもりはなかったのなら許そう。
さて、ではこれをどう隠すかが問題だ。
彼氏とのお泊まりの後、わたしは思案した。
ネットで検索すると、コンシーラとファンデーションで隠す、冷やす、アロエクリームを塗るなど、様々な対処法が出てくる。上から順番に試すがうまくいかない。
最終手段だ。わたしは、絆創膏をつけて出勤した。

会う人会う人にニヤニヤされ、それどーしたの?と聞かれた

わたしは、恋愛の経験値が少なく、知らなかった。首元に絆創膏を貼るのが、キスマークを隠すときの常套手段であることなんて。
意気揚々と、なにも恥ずかしがることはないと思い、首元に絆創膏をくっつけ出勤した。
すると、会う人会う人にニヤニヤされながら、それどーしたの?と聞かれた。わたしは、恥ずかし気も無く、ヘアアイロンでやっちゃってと答えた。
絶対にバレないと思った。けれど、会う人会う人は、わたしがキスマークをつけて出勤していると気づいているようだった。わたしの言い訳に対して、「うわーそんなところに、アイロンが当たるなんてあるんだね」「大変だったね」と何か含みを持たせるような表現で、笑いながら返事をされた。

それを受けて、うわー、みんなにわたしは昨日キスされましたって悟られているような気がして、とてつもなく恥ずかしい気持ちになった。
自分のプライベートを垣間見せてるのは自分なのに。そんなことパートナーにさせてしまった自分が悪いのに。それを職場のいつもちゃんとしている場で察せられるのは、穴があれば入ってしまいたくなるほど恥ずかしかった。髪を結ばないといけない規定の職場だが何度、髪を下ろそうと思ったことか……。
でも、そのお陰で普段業務連絡しか話さないような人に話しかけられた。恥ずかしかったけれど、話のきっかけとなったのは事実だった。

そして、このキスマークをいじることが出来る人は、きっと自分もそれに近しい経験がある人なのだろうなと思った。
周りを歩く、日々関わる厳しい面ばかり見せつけてくる、機械のように見えることもある会社の人々。だけど、実はプライベートでは、人間らしく、人を好きになったりしてるんだという当たり前のことを思い出した。
抱きしめられて嬉しいと感じたり、好きな人との果てにできた子供を育てている人間なんだということを思い出した。

人々の当たり前のつながりの中に、溶け込めたような気がした

今まで、恋愛をしてこなくて。自分が恋愛がするところも想像出来なくて。男性経験も無くて。自分はきっと恋もせず、子供も育てず、人間のサイクルから外れたところで生きていくんだろうなと思っていた。
今の時代、それでも許されはするだろうけど、少しだけ、ほんの少しだけだけど、人々の生み出す当たり前の生き方の流れから、弾き出されたような悲しみを感じていた。
けど、キスマークという、男女関係の営みの跡を自分につけられて、それを他者に認識されることで、性行為をし、子供をつくり、育てるという人間としてのサイクルを回している、人々の当たり前のつながりの中にやっと少し、溶け込めたかのような気がした。
日々感じていた、みんなの当たり前の流れから、外れているような、少し鬱屈した苦しみから解放されたような気がした。

そして、今回の経験から、首元に絆創膏をつけるのは、キスマークを隠すための常套手段であり、もはや見せつけにいってるかのような行為であることを知った。
もう、一回経験して学んだので、首元にキスマークなんてつけられないように気をつけようと強く思った。
ここまで社会のつながりとか、疎外感とかいろいろ述べてきたが、人に自分のプライベートをいじられるのはやっぱり恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。
社会人なので、プライベートは出ないように自分をコントロールできるよう、パートナーに対してもそのような配慮を求められるような強い大人になろうと思った。