私は、今年で二十歳になるが、メイクをしたことがない。
正確には、自分でメイクをしたことがない。
メイクをされたことがあるのは、記憶の限りでは、二回だけだ。

ふたえテープでコンプレックスを解消し、メイクに興味を持ち始めた妹

その二回はいつかというと、七歳のときの七五三の写真撮影のときと、妹にメイクの実験台にされたときだ。後者は最近のことで、十九になったばかりのころだった気がする。とにかく、私はメイクの経験が同世代に比べてかなり少ない。というかない。
私を実験台にした二つ年下の妹は、たしか高校一年の夏ごろからメイクをやり始めた。メイク、といっても、始まりは、「ひとえ」を「ふたえ」にするテープだった。
妹はひとえの目を酷く気にしていた。コンプレックスというやつだ。それをなくすべく、妹は努力し始めた。
テープの力を借りて(ちなみに今はのりタイプとやらを使っている)ふたえを手に入れた妹は、次にメイクに興味を持った。このころからバイトを始め、自由に使えるようになったお金が増えた、というのも大きかったのだろう。
リップに始まり、アイシャドウ、チーク、コンシーラー、まつげカーラーなど(これらの名前だけは一丁前に知っている)、妹のメイク道具は日に日に多くなっていった。現在妹は高校三年だが、朝から、本人曰く、軽めのメイクをしている。起きるのは遅いくせに、そこだけはしっかりしている。

メイクは自分自身を変える魔法のようなものだと、妹が証明した

さて、話の趣旨が少しずれるが、妹には彼氏がいる。
私がそれを知ったのはつい最近のことで、すでに付き合って一年が経過したころだった。
妹はどちらかというとモテるほうなので、彼氏がいるということには大して驚かなかったが、交際期間に関しては驚いた。男子からモテて付き合いもするが、そこまで長く続いたことは、私の知る限り、一度もなかった。
私の想像ではあるが、妹は今の彼氏を好きになったことで、「両想いになりたい」「付き合いたい」と思うようになり、メイクを始めたのだろうと思う。コンプレックスを克服しようと考えたのも、相手によく見られたいから。自分が好きな顔でないと、相手もなかなか好きになってくれないだろう。
そうした努力を経て、妹は「かわいい」を手に入れ、彼氏もゲットしたのだ。
メイクは、自分自身を変えてくれる、魔法のようなものだと思う。女の子が一歩踏み出すための勇気を、背中を押してくれる。妹がそれを証明してくれた。
しかし、これらは女性に限ったことではないと思う。最近増えているという、メイクをする男性や、コスプレイヤーにだって、これらの理由があるのだろう。誰だって、自分を変えるためにメイクをするのだ。

「今の私」に満足しているから、私とメイクとの距離は、まだ遠い

では、メイクをしたことのない私はというと、たしかに自分自身を変えたい、変えようと思ったことはない。けっして、自分の顔に自信があるわけでも、コンプレックスがないわけでもない。
なぜメイクをしようと思ったことがないのか考えてみると、シンプルな答えにたどり着いた。
私は、「今の私」に満足しているのだ。だから、今の自分を変えようとは思わない。これは、とても幸せなことなのではないかと、自分でそう思う。着飾らない、素の「私」という人間を、自分自身が受け入れられているのだ。このような人は少ないと思うから、嬉しく感じる。
私とメイクとの距離は、まだ遠い。けれど、もし、私の中で「自分を変えたい」という思いが芽生えてきたら、素直に受け入れようと思う。
その方法が、メイクであってもそうでなくても、自分の気持ちを最初に肯定することができるのは、誰だって自分自身なのだから。