コロナ禍の恋愛。それは、YouTubeで見るような安っぽくて、どこにでもありそうな、いわゆる若者にありそうな一連の出来事そのものだった。
第一印象で「合わない」と感じた相手と初めて会った日から体を重ねた
奴とは、恋愛アプリで知り合った。私たちはお互いのことをどこまでも知らないのに、初めて会った時から夜を過ごした。
正直、私は第一印象で「合わない」と感じた。ただ、それは昼間の奴だ。考え方とか、アプリでやり取りしていた印象とはまるで違った。
そして、直感的にたぶんこれは本気で相手を探してるのではなくて、単に遊びたいだけなのではというあまり考えたくない、しかし、最も現実的な考え方が脳裏をよぎった。
ただ、何となく、恋愛チックな雰囲気が夜になると勝手に出来上がる。ほんと、馬鹿げた話だと、何度思い出してもやり切れない。
だいたい、何でも寝て忘れられたらどんなに良いかと思うけど、こういう文章が書けてしまうということは、全然それが出来ないということだ。
私は、奴のされるがままに身を任せた。相手のことは好きではない。しかし、たしかに、一人では味わえない興奮と刺激が自分の中に走っていたのは間違いない。自分の口から出る声さえ、自分でも引くくらい極まったものになっていたような気がする。
お互いのことも話さないまま、私たちは「快楽だけ」を求めた
奴は私のことを何だと思っていたのだろうか。それからも、週末の夜になると私の家に来るようになった。それも、何週間かおきに。ふいにやってくるようになった。
そう、昼間には来ない。昼間、何をしていたのかと聞いても、非常に曖昧な言葉しか返って来ない。それがいちばん気になるのに、たくさん聞き出したいのに、もしこれ以上聞いて奴が嫌な思いをしたら、この後のことも出来なくなってしまうのだろうかと思うと、ぐっとこらえて、「忙しいんだね」と言って済ませていた。
そして、最近どうだったとか、今日はこんなことがあったとか、当たり前に交わす言葉も少ないまま、私たちはもはやルーティンのようにするようになった。
いや、正直にいえば、私も一時期、すっかりその快感のとりこになってしまっていた。週末になると刺激を求める自分自身の体に、一人ではどうしようも出来なかった。
しかし、本当に相手のことを愛していないのに、それをするだけという冷静な現実をなぜ私は数か月の間、見ようとしなかったのだろうか。いつかそのうち、相手から気持ちを伝えてくることを期待していたのかもしれない。
しかし、そんな感じは全くない。当たり前だ。そもそも、きっと恋愛対象にもなっていなかったのだから。
好きでもない相手と行為が出来てしまうなんて、性欲とはけっこう恐ろしいものだと、つくづく思う。少なくとも私は、好きでもない相手とするのは良いと思わない。これはあくまで個人的な意見だが。
体は一番近い関係になっていたのに、彼に対して「安心感」がなかった
ただ、コロナで本当に人恋しくなっていた自分にとって、週末の夜なぜか自分の前に現れ、快感と刺激をもたらす奴のことを100%拒絶することはなかった。
今、振り返ると私は一連のことをした後、熟睡出来たことがない。心地良い疲労感と安心感で眠りにつけるはずなのだが、そう、なぜか常に不安な気持ちがずっと心の中から消えなかった。
奴はきっと寝ていたのだろう、普通に。不安など抱く要素もないのだから。
体は一番近い関係になっているのに、なぜか奴のことがものすごく遠く感じていたのは心からの安心感が得られなかったからだと、今振り返れば思うことが出来る。
最初こそ朝が来たことに、もう少し夜が続いて欲しかったと暗さを欲したが、数を重ねるうちに、朝になれば奴はどうせ帰る、早く朝になれば良いと思うようになった。私は私という人間と本当に向き合えない人とそんな関係になんかなりたくない。そんな思いが、どんどん募っていった。
もっと、自分のことも、そして相手のことも本当に大切に出来たとき、私は一番近くになりたい。勢い任せで始まった夜のことも、いつかあんなこともあったと、もっと大きな心で思えるよう、心も体も成長したいものだ。