「ほら、出かけるんだからメイクくらいしていきなさい」
「え、マスクして行くのに?」
「マスクとかは関係ないの。目元も見られるでしょ。常識よ常識」
親戚の家に行くときの会話だ。
長時間いるわけでもないし、少し立ち寄るくらいなのにメイクをして出かけるように言われた。仕方なくメイクをすると、「やっぱりメイクした方がいいわ」と言われた。
メイクをしなくてはいけない風潮。メイクをしないことは悪いこと?
高校生の時までは、メイクをする方が非難されていた。校則ではしてはいけないことになっていたし、周りからもまだ早いと言われた。
しかし、大学に入り、20歳を過ぎた頃から周りから外出時はメイクをすることが当然という空気が流れた。大学内でメイクをしていなかった私は少数派だった。
社会人になってからは、ますますメイクをしなければならない風潮が広がった。社会人はメイクをしていない方が非難されるようになった。
初めはその流れにのり、自分もメイクをするようになったが違和感があった。
高校生まではしない方がよくて、社会人になればしなければならない。
大人になると顔が見苦しくなるってこと?
化粧も選挙権や結婚、お酒やタバコと同じような捉え方をするの?
なぜ、女性だけがメイクをするべきだって言われないといけないの?
次々と疑問が湧いた。メイクをしていなくても別に悪いことをしているわけではないし、しないことが恥ずかしいことではないと思った。
私はメイクが嫌いなわけではない。自分の成人式の写真を見たときに、メイクっていいなと思った。親戚や家族にキレイだと言われ嬉しかった。キレイになった自分を見てもらえる喜びを知った。
その後ミスコンにも参加し、撮影会では毎回メイクをした。
メイクをしなかったある日、思いがけない出会いに恥ずかしくなった
メイク経験が少なかった私は、ダメだしされながらもメイクをして撮影会に臨んだ。メイクをすることで堂々と外を歩くことができた。着飾った自分、キレイになったことで自信が持てる。そんな気になった。
しかし、彼に言われた。
「メイクしない方がいい」
驚いた。キレイになった私に惚れ直すのではないかと若干の期待があったが、むしろ逆だった。
彼曰く、「スキンシップを取るときにメイクをしていると嫌な感じがする。いつもの私じゃないことに違和感をいだく。メイクしなくてもかわいいから、余計な装飾してほしくない」とのことだった。
してほしくないなら彼の前ではしないでおこうと決め、デートの時もほぼメイクはせずに出かけた。母からは、出かけるんだからそれなりの格好をし、メイクをして行くよう言われていたが、会う相手がメイクをしてほしくない彼なので、彼の意見を優先した。
デート先で思いがけない人と出会った。撮影会で写真を撮ってくれていたおじさんだった。
あっ……とお互い気がついたが、私は思わず顔を逸らした。撮影会の時はバッチリメイクをしているのに、今日は彼と会うからメイクをしていなかった。急に恥ずかしくなった。
「メイクをしないと恥ずかしい」感じた気持ちに負けた気がした
どんな風に見られているのだろうか、幻滅させられたのではないだろうか。
軽くあいさつをしてその場を去ったため、おじさんが私のことをどう思ったのかはわからない。
でも、私は知らず知らずのうちにメイクをしていないと恥ずかしいと思うようになっていた。しなくてもいいと思い込んでいたメイクを、しないと恥ずかしいと感じていた。
なぜか負けた気がした。
周りからの目をどこか気にして、誰かの意に沿ってメイクをしたり、メイクをしなかったりしていた。
自分の意思でメイクをする。したい時にメイクをして、したくない時はメイクをしない。
それでいい。そうありたい。でも、私は周りの言葉で揺れてしまった。
これからは自分でメイクをする時を決める。
大事な時しかメイクをしない私だけど、それでいいと堂々と外を歩こう!