「またいつか戻ってくるね」
「また会う日まで」
そう彼に伝えて、地元を去った私。その頃はまだ、こんなに世の中が荒れるなんて想像もしていなかった。

恋人になりたかった、でも、なりきれなかった

彼と出会ったのは大学4年生の春。同じ大学、同じ学部、同じ研究室。存在は知っていたけれど話をしたことがなかった。分かりやすく言えば陰キャラと陽キャラ。映画やドラマの演出みたい。

きっかけは教育実習。すごく気が合ったわけでも、顔がタイプなわけでもなく、実習という壁を乗り越える「仲間」くらいの感覚だった。
振り返れば、その時にはもう気になっていたんだと思う。そんなはずが無いと自分を誤魔化し続けていたものだから、「好き」を自覚するまでに時間がかかった。

そして教育実習が終わり、より一層関係は縮まった。2人で遊びに行くようになり、お泊まりだってした。身体の関係ではなく、「顔を見たいから会う」という純粋な気持ちだったのは奇跡だったかもしれない。
恋人になりたかった、でも、なりきれなかった。大学卒業という人生の節目を迎えることは分かりきっていたから。
お互いの進路はバラバラ。遠距離になって上手くいかない未来が待っているに違いない。それでも今を大切にしたくて、交際を始めた。

体調を崩し休職。なんでもっと私を見てくれないんだろう

平和な日々も長く続かず。日本にコロナウイルスがやってきた。卒業式は中止に、入社式はオンライン。世間は不穏な空気に包まれている中、遠距離恋愛がスタートした。

2020年9月。HSP気質の私は、体調を崩し仕事を休むことになった。頼れるのは遠距離中の彼だった。とはいえ連絡の頻度は少なく、1日2往復程度。「おはよう」と「仕事が終わったよ」の報告。
心身ともに疲弊していた私は、身勝手だけど、なんでもっと私を見てくれないんだろうと思った。このまま関東に残れば、もう帰るタイミングなんてない。近くで助けてくれる人にすがりたい。もうお別れした方がいいのかもと、頭をよぎることだってあった。
職場復帰が近づくにつれ、今後の選択に迷い焦る。
何が正解なんだろうか。新卒で会社を辞めたら次に行くところはない。23歳で恋愛を優先して後悔はしないんだろうか。

心身の疲れとともに悩みは尽きず、一向に回復した気がしなかった。人生のどん底かと思えるほど路頭に迷っていた。

友人から結婚報告に、「オレたちは、いつする?」

そして3か月と少しの休職を経て、彼の住む街へ行くことを決めた。これは一か八かの賭けだった。
収入ゼロの彼女なんて受け入れたくないだろう。彼も新卒1年目。私を養えるほどの金銭力なんてないんだから。
それでも「いいよ」と言ってくれた彼。
会社を辞めると決めた日から、退職日まであまり時間はなかった。次に住む家を探し、引っ越しの準備をする。それはもう嵐のように強引で、トントン拍子に物事が進んでいく。今がタイミングだと知らせてくれているかのように。

そして、短い遠距離恋愛を経て一緒に暮らし始めた私たち。こんなにも早く近くにいられるなんて思ってもいなかった。どん底だった心も傷が癒え、フリーランスとして仕事ができるようにもなってきた。
「結婚」というワードは暗黙の了解になっており、月日は流れる。
そんなある日、共通の友人から結婚報告が。それに便乗するかのように「オレたちは、いつする?」と言う彼。「いつしてくれますか?」と答えた私。
これを機に2人で話し合いをし、婚約者となった私たち。

もし不安定な世の中じゃなければ、こうはなっていなかっただろう。きっと数年は関東で働き、会社を辞めるという決断も、彼のところに戻るという決断もしていなかったはず。全て決まっていたかのように動く世界。

何もかもコロナのせいだ。