小さい頃からプリンセスになりたかった。
プリンセスは女の子の憧れで、心優しく美しいから。
幼稚園生の頃の将来の夢は、ふたりはプリキュアのキュアホワイトだった。
でも勝気で元気いっぱいな私は、気付くとピンクより水色が、スカートよりもズボンが好きだった。
可愛いものが似合わない。どちらかと言えばスポーティーな女の子。

メイクなんて大嫌い。「べき論」で闘って負けた大学1年次の苦い思い出

そんな自己評価のまま大きくなった大学1年生の頃、メイクが大嫌いだった。
高校では3年間生活風紀委員で、最終的に風紀委員長になった私はスカートを折ることもなく、髪を染めることもなかった。
もちろんメイクにも興味すらなかった。
当時の生徒証を今の友人に見せると、「なんだか安心感を感じる」「こんなに変わるんですね」と言われるくらいには年相応というか、律儀に校則を守っているどちらかと言うと地味な生徒だった。
もちろん自分が可愛い、綺麗だと思うことなんて1度もなかった。むしろ逆だった。
当時の私はオタクで、メイクやファッションを収集することなく、推しの情報やゲームの攻略を収集して高校卒業をした。

高校と大学の間の春休み。
初めて「メイクをしなければならない」と感じたのは、大学の入学式前日の事だった。急いで母と近所のショッピングモールにあるコスメを取り扱うカウンターへ行った。
だが今思い返すと、初心者かつ18歳の私にはコスメブランドのチョイスが少し大人すぎたのだと思う。
初めてのメイクはそれは酷いもので、白く浮いた肌にピンクのチーク、アイラインも太くアイシャドウも濃い、まるでステージ上のバレリーナのようだった。
そこから暫くは毎朝メイクと闘ったが、1ヶ月も経たずに負けてしまった。
「化粧は嫌いだ」
「どうして大学生になったら当たり前なのか」
「高校生の間に一般教養として教えてくれればいいのに」
「清潔であれば化粧なんかしなくたって誰にも迷惑かけないのに」
そう思いながら大学生活を送り、2年生になった頃、コスプレと出会った。

自分の推しになりたい。その思いが私の美意識意欲を掻き立てた

きっかけはサークルの同期が私もよく知るゲームのキャラクターになりきっていたからだ。
近くで見ると凄いもので、普段アーモンドのようにくりっとした目がややつり目のツン、とした目に、黒髪はウィッグで輝くような金髪に、黒く艶のあるまつ毛は髪に合わせて金色に……魔法かなにかかと思った。
「どうしてまつ毛が金色なのか」
気になって仕方がなくて、コスメもメイクも分からないけど聞いてみた。
「用途は違うけど、髪色に合わせて眉マスカラを塗った」
眉マスカラが何なのかは後々調べたが、そんなやり方アリなんだ、と純粋に思ったし、細かく見てみると、これは当たり前なのだが、パーツの形が変わっている訳ではなく線の跳ね、濃淡で人間の顔がここまで変わるのは面白い。
そこから私はコスプレにハマっていった。
最初は自分の推しになってみたくて色々顔をいじってみた。
やはり酷いものだった。
これでは他にも居るはずの、このキャラクターを好きな人達に怒られてしまう……その一心でメイクの仕方を調べた。
ある日は有名なコスプレイヤーの投稿を、ある日はアイライナーの上手な扱い方を。使えそうなものは全てスクリーンショットして真似てみた。
2回目の推しの顔は、初心者の割に上手に出来た。
目はアーモンドのようになり、鼻筋もしゅっとして見える。キリッとした眉も、同期のように金髪に合わせたまつ毛も作った。
きっと完璧ではないけれど、鏡に映る推しに達成感を感じた。
同時にメイクの可能性も感じて、もっとしたい、もっと知りたい、もっとかっこよく、綺麗になりたい。
初めて美に対する欲が泉のように生まれた。
それからは自分の年齢に合わせたコンセプトのコスメブランドを自分で選び、肌の色に馴染むものを探し、色んな物を試して自分の理想や顔に合ったものを揃えていった。
メイクは楽しい。クールにもキュートにもなれる。
まつ毛が上向きなだけで顔も上がるし背筋も伸びる。
自分に自信が持てる。
あんなに似合わないからと避けていたスカートだって恥ずかしくない。
髪も染めたり巻いたりし始めた。
きっと高校時代のクラスメイトの一部は今の私を見て驚くことだろう。

もっと自分の魅力に気付いてあげたい。実は私もプリンセスなのだ

私は可愛い。
私は本当は綺麗だったんだ。
気付くのが遅かった事が今でも悔やまれる。
もう少し早く興味を持ちたかった。
高校生だった私のように感じている子はきっといっぱい居るんじゃないだろうか。
そう思ったら、どうにか支えになりたくなった。
メイクは本当は楽しいし、あなたも私も美しい。
手間や時間、お金はかかるけど、それでも他に代えがたい自信がずっと持てる魔法。
教えたいし助けになりたい。
その一心で今私は大学を3年の春学期で中退して、美容専門学校に通うためにアパレルスタッフとして働いている。
いつか、どこかに、フェアリーゴッドマザーを待ってるシンデレラへ魔法をかけに行くために。