もうすぐ19歳になる夏、夏休みを目前に控えたあの頃、好きな人と休み明けに会う口実がほしくて本を借りた。
もうすぐ29歳になるこの夏、もう彼と会わないでいられる自分になれるように、儚さの象徴みたいな花火をした。
この10年間の特別な感情に、私はきっと終止符を打てた。
特別な彼に抱く恋心。私の一番の青春は、彼を好きでいたあの頃だ
10年間、ずっと彼が好きだったわけじゃない。
だけどずっと、特別だった。
彼を好きになって1年が経った頃、二人で過ごせる時間がぐんと増えた頃に、彼には半年以上前から付き合ってる彼女がいることを知った。
告白しようと思った矢先の出来事、その後も彼とは二人で会う機会が多くあって、私は嬉しい反面とても辛い時期を、それから半年以上もの間過ごし続けた。
いつかの夏の帰り道、彼と二人で会った後、仲良くしていたもう一人と一緒に3人で駅まで向かった日があった。
もう一人の人と二人で、同じ電車に乗って、「好きな人いないの?」と聞かれたあの日、私は彼のことが好きだなんて言えなかった。
きっとこの人は彼に彼女がいることを知ってるだろうと思ったし、私はそれを知って数ヶ月経っても、全然大丈夫になれていないままだった。
いつかの冬、別の人の家で、また好きな人いないの?という話になった。
この人も彼ととても仲の良い人で、でももう私は彼のことが好きだったと口に出してしまった。
「もっと早く言ってくれれば協力したのに」と話すこの人に、私は恋に協力とかあるのだということを初めて知った。
女子校あがり、彼氏ができたこともなかった私の、一番の青春はこの頃だった。
突然、手をつないできた彼。好きな気持ちは完全に舞い戻ってしまった
それから時間が経って私も他に好きな人ができて、彼のことを好きとか思わないでいられる自分になれた。
だけど彼はずっと特別な存在であり続けて、死ぬ前にもう一度会いたい人リストを作れば真っ先に名前が思い浮かんだし、大学を卒業してからも何度かふらっと会う関係を保ち続けた。
そこに亀裂が入ったのは、また1年以上ぶりに会った日の出来事だった。
久しぶりに会った彼は、初めて私の手を繋いできた。
何の前触れもなく、唐突に起きたその出来事に、私は上手く握り返すことができなかった。
だけどその日を境にして、私の中の彼を好きだという気持ちは、完全に舞い戻ってきてしまうことになった。
そこから月1で会うようになった彼とは、デートスポットにも行ったし、手も繋いだし、キスもした。
だけど決して、それ以上になることはなかった。
毎回会うたび、前回会った時と同じ話題から会話を始める彼に、この人は私のことを好きじゃないんだなという確信を抱いた。
どんなに彼を好きでいても、大切にされている実感はまるでなかった。
もしまた彼に会うのなら、とびきりのお洒落をしない私でいよう
最後にしようと決めた日、なぜか彼の言葉の棘にばかり気づいた。
元々そんなの知っていたのに、好きな気持ちが大きい時には、そんなことすら受け入れられてしまっていた。
同じ傘に自然と二人で入れる距離感になっても、彼は私のことを一切褒めてはくれなかった。
「儚さが人生みたいだね」と笑いながらやった花火の後、明日の予定だとか周りの結婚出産の話とか、たわいない話をしながら駅まで向かった。
知り合って10年経ってもこうやって話せる彼との関係はやっぱりいいなと感じて、歩みを緩める私を他所に、彼は私を置いていかない程度なものの、同じように緩めてはくれない絶妙な速度で歩き続けた。
別れ際またねと手を振る彼と、次に会う日が存在するのかはわからない。
だけどちゃんと彼を好きだという気持ちにけじめをつけて、万が一次会う時には絶対に期待をしないと、自分に何度も言い聞かせる。
数年後の夏、もしまた彼に会おうなんて言われたら、その時はとびきりのお洒落なんてせずに、何事もなかったかのように手をひらひらと振る私でいよう。