「また喧嘩して別れたの?何回目?」。友達にそう言われた回数は、もう覚えていない。
夫とわたしは、高校からの付き合いだ。しかし、高校から一度も途切れずゴールイン……というわけではなく、何回か別れて、また復縁を繰り返してからの結婚だった。
部屋を片付けるため断捨離していたら、ダンボールが二つ出てきた
結婚してからは多少落ち着いたものの、やはり時折は喧嘩もある。しかし、帰る実家もないわたしは、喧嘩した日は夫の眠る寝室から抜け出して、リビングのソファでぼんやりと「何で結婚したんだっけ?」と考えることもあった。
先日、物置と化している空き部屋の片付けを始めた。引っ越す可能性が出てきたので、いらないものを徹底的に処分するつもりだった。しばらく着ていない洋服、もう読まないであろう本……。そういったものをビニール袋につめていく。
しばらく片付けていると、何が入っているのかわからないダンボールが二つ出てきた。一つ開けてみると、そこには結婚式でつかった飾りなどの小物類と、夫が学生時代にくれたぬいぐるみが入っていた。
結婚式で夫がサプライズで贈ってきた薔薇の花を押し花にしたもの。結婚式の最後、「あなたと結婚できて私は幸せです」そう言って、夫は薔薇の花束を差し出した。学生時代、「なかなか会えなくてごめん」そう言って、数ヶ月ぶりに会った夫は、わたしの好きなリラックマのぬいぐるみを差し出した。
もう一つのダンボールの中には高校時代に夫と書いた日記が入っていた
捨てられないと判断して、もう一つのダンボールを開けた。そこには高校の制服と、交換日記が入っていた。夫と出会った高校の制服、そしてそれを着ていたころに夫と書いていた日記帳。「恋人たちへ365問の質問」とタイトルに書いてある日記帳で、そのタイトル通り、中には各ページに質問が書いてある。どんなことを書いたか覚えていなかったので、わたしは日記帳のページをめくった。
問:この恋はどんな味がしますか?
答(夫):ジンギスカンキャラメルとビールドロップとスイートチョコレートを足して3で割って、アボガドロ定数をかけたような味。
答(私):どういうことだ……。
「昔から変な人だったな……」そう思いつつ、ぱらぱらとページをめくっていく。あるページで手が止まった。
問:恋人のために秘密で努力していることはありますか?
答(夫):勉強。たくさん勉強して、いい大学に行って、いい会社に入って、早くあいつに楽をさせてやりたい。
夫は皮肉を言うけど、昔からずっと「まっすぐ」わたしだけを見ている
夫は昔からそうだった。口では皮肉を言ったりするものの、彼の行動原理はわたしが中心なのだ。わたしが実家から逃げたがっていたから、たくさん勉強して一流の大学に行って、実家から距離のある企業に入ってわたしを連れ出した。
夫と付き合いだす直前まで、わたしは高校の先輩と付き合っていた。幸せとは言えない恋だった。夫はそんなわたしに「あの人より幸せにするから、俺にしなさい」そう言った。夫は、昔からずっと、まっすぐわたしだけを見ている。それを確認して、わたしもまた夫との恋にあらためて落ちていくのだった。
これからもまた喧嘩はするかもしれない。でも、もうきっとわたしは夫とは別れない。夫がわたしをまっすぐ見つめ続けている限りは。「これも捨てられないな……」そう思って、結局わたしは日記帳をダンボールに戻したのだった。