「あ、カキ天…」
1月のはじめ、スーパーの総菜コーナーで1パックだけ残っていた牡蠣の天ぷらを見た瞬間、隣からも同じセリフが聞こえた。

その日は年越しそばリベンジをする予定で、既にインスタントの蕎麦は買ってあったので、エビ天を探していた。年越しの瞬間、彼が買ってきてくれたエビ天をのっけたそばを一緒にすすろうとした横で、前の片想い人にあけおめLINEを返していた彼に腹が立って喧嘩になって、ぜんぜん蕎麦の味がしなくて悔しくて。でも2人で迎える初めての年越しだったから、「年越し蕎麦、楽しい思い出にしたかったからやりなおしたい」と私が提案した。

今思えば些細なことだし、正月もとっくに過ぎたのにやりなおしたいなんてわがままだろうなと思ったけど、腹を立てた私に怒ることもなく「ごめん」と謝って、やりなおしたいと言ったら「そうだね、ほんとにごめんね。一緒にエビ天買いに行ってくれる?」と手を繋いでスーパーまで行ってくれた彼は本当に優しいなと思う。

2人して惹かれるがままにカキ天をレジに通して、家に帰って食べた「年越し蕎麦」は、本当に美味しかった。

いい子なわたしと、いたずらっ子な隣の君

そんな彼との出会いはお互い小学校2年生、8歳の時であり、29歳の7月に夫となった。

小学生の時、転校してきた私の隣になることの多かった彼は、授業中にちょっかいを出しては楽しみ、先生の言うことなど耳に入らないといったふうの、遊ぶことが大好きないじめっこだった。

対して私は、転勤族だったこともあり早く学校に馴染まねば、先生に目を付けられないようにしなければといろいろ考えた結果、いわゆる優等生であることを選択した小学生だった。テストは嫌いだったけれど勉強は好きだった性格も有難かった。だからかなり頑張って優等生ぶっていたと思う。

けれど隣の君は何かしらちょっかいを出してくる。しかも授業中に。やめてほしくて、そして授業は静かに受けるものだろうという当時の正義感から彼に対してやめてよと何度も言っていた。

それがうるさかったのか、先生から「2人とも立ちなさい」と指示された。私はその屈辱から憎しみを込めて隣の君を睨むと、彼は満面の笑みでこちらを見ていた。これだけは未だに忘れられない。

「じゃああの人は?」と紹介された1年後には、もう夫婦だった

その後小学校5年生の時私は再び転校し、彼とは関わりのないまま高校へ進学した。

高校入学式の日、順に名前を呼ばれる。その時聞き覚えのある名前だなと思ったら同じクラスに彼が居た。あの隣の君が。

何で居るんだろう…とは思ったが彼は大人しくなっていて、基本的に授業中は寝ていたし、私は大学進学を目指していたのでゴリゴリ勉強していて、あまり関わることはなかった。卒業してからも同窓会で会うことなどはあったが、話すことも少なく、お互いあまり気にしていたかったと思う。

28歳の春、私は高校の同級生の結婚祝いの食事会の幹事をすることとなり、その同級生の親友だった隣の君である彼と連絡を取り合うようになった。

いろいろあって、その同級生の奥さんと話している時、隣の君を恋人にどうかと紹介され、付き合うこととなり、1年も経たず結婚していた。

夫の傍に居る時の安心感がたまらなく好き

夫は毎日おはようと言い、行ってきますと言い、かわいいねと言い、好きだよと言い、スカートをめくり、外出しようとすれば布団に引きずり込もうとし、困って怒る私の顔を見ては幸せそうな満面の笑みをこちらに向けてくる。小学生の頃と変わらない笑顔で。

仕事で落ち込んだ時にはずっと抱きしめてくれて、風邪をひいた時にはたくさんの飲み物とおかゆを買いこんで看病してくれて、楽しいことも困ったことも何でも話し合えて、お土産で買ったぬいぐるみを抱えて幸せそうに眠る夫と過ごしていたら、もう憎しみなどなく、ただただ好きだなと思って見つめられる。その時の私はきっと夫と同じような顔をしていると思う。

夫の傍に居る時の安心感がたまらなく好きで、「安心感が宇宙だね」と伝えたら笑ってくれた。