少女漫画の主人公はよく、「私『を』好きな人か、私『が』好きな人か」を天秤にかける。そして最終的に、「私『が』好きな人が、私『を』好きな人になる」のがセオリーだ。
しかし、これはそもそも「私が好きな人」が自分に好意を抱く可能性がある事が前提である。それなら、「私が好きな人」が私を絶対好きにならないとすれば、その恋は諦めるしかないのだろうか。
高校1年生の入学後、声を掛けてきた「先輩」を好きになってしまった
先輩と初めて出会ったのは、高校1年生の4月。入学後、入部する部活を決めかねていた私は、校内をブラブラ歩いていた。そんな時、声を掛けてきたのが先輩だった。
2年生だった先輩は、私と1歳しか歳が違わないにも関わらず、ずっと大人に見えた。「まだ部活が決まってないならうちに!」と私は腕を掴まれ、部室へ連れていかれた。始まりこそ強引ではあったが、先輩達の熱心な勧誘の末、私はその日の内に入部を決めた。
先輩は人との距離が近い人だった。それは同級生に対しても後輩に対してもだ。その中でも私は特別だった。部内ではいつも先輩の1番近くにいた。
度々2人で帰ったり、遊びに行ったり。ただの先輩後輩と呼ぶには近すぎるような距離感。物心ついた時から恋愛的に女性が好きだった私は、共に過ごす日々の中で、いつしか私は先輩に恋愛感情を抱くようになった。
いつも1番近くにいたのに、先輩の好きなタイプを知らなかった
「彼氏いるよ」。先輩が笑いながらそう言ったのは2年の夏の終わり。3年生の先輩は引退直前だった。部員でゲームセンターで遊んだ帰り道。私は言葉を失った。
その衝撃の告白に、他の部員は大騒ぎだった。先輩から彼氏の情報を色々と聞き出す。先輩より7つ歳上で、社会人の彼氏。「歳上の男の人がタイプだから」と顔を赤らめながら話す先輩にとって、理想的な彼のようだ。
私はその日まで、先輩の好きなタイプを知らなかった。そういった「恋バナ」を話す機会はいくらでもあったのに、避けていた。先輩の「好きな人」が私になる可能性がないという事実を知りたくなかったから。
結果、先輩のタイプは歳上の男性、私は後輩の女。笑える程真逆の存在だった。
私はこの時まで、もしかしたら……と思っていた。もしかしたら先輩が私の事を好きになってくれる可能性はゼロじゃないのではないか、と。
しかし、これは大きな間違いだった。元々可能性なんてなかったようだ……。急に恥ずかしくなった。何を期待していたんだろう、と。私はこの日を境に、先輩への気持ちを忘れることにした。
先輩にとって私は「1番大切な後輩」で「1番大切な人」じゃなかった
先輩の卒業式の日、花束を片手に先輩の元へ行った。私を見つけると、目に涙を浮かべた先輩がこちらへ駆け寄ってきて言った。「後輩として、1番大切な存在だった。ありがとう」。
大切な存在ってなんだろう。先輩にとって私は、高校3年間の中で「1番大切な後輩」だった。でも、私は先輩の「1番大切な人」になる事はなかった。
私を「大切だ」と言ってくれたその言葉こそが、私が越えられない壁。先輩の「好きな人」に私がなることはない。少女漫画は最終的に、「私が好きな人が、私を好きな人になる」のがセオリーだ。
最近、私は「私を好きな人」と出会った。先輩と同じ歳の彼女は少し天然な人で、私よりも幼く見える。そして私が好きな人は、まだ7つ上の彼氏と付き合っているようだ。
彼女が私に愛の言葉を囁く度に、罪悪感の波が押し寄せる。高校時代よりずっと綺麗になった先輩を見る度に、終わったはずの感情が沸き上がる。
私が少女漫画の主人公だったなら、「歳上の男の人」が好きな先輩でも私を好きになってくれたのだろうか──。可能性のない無謀な感情、諦めたはずなのにあれからずっと考えてしまう。
ふと先輩のSNSの投稿にいいねを付けてみる。こんな事で気を引けるはずはないけれど。
そんな事をしている限り、きっとこの恋は終わらない。