2019年 冬。
私の心は空っぽになった。
未だそれが埋まることはない。
でも思い出という愛を携え、私は生きていく。

カラッと晴れたお天気の七夕の日、我が家の一員になったワンコ

2001年 夏。
新しい家族が増えた。
生後2ヶ月の、ジャックラッセルテリアの男の子。
近所のペットショップにそのわんぱくでやんちゃな可愛すぎるワンコが来て以来、私たち家族はすっかり骨抜きにされてしまった。
これからのワンコとの人生を示唆するかのような、カラッと晴れた良いお天気の七夕の日に、家族の一員となってくれた。

ワンコとの生活は、それはそれは楽しく充実した日々だった。
お散歩は朝昼晩の1日3回。朝と晩は私の担当で、登校前と帰宅後に必ず小一時間は一緒に歩いたり走ったりした。

破壊してくれたぬいぐるみは数知れず。帰宅したら、床中が綿まみれの凄惨な現場の真ん中で、満足気にシッポを振っていたり。
気がついたら廊下の壁がかじられ、角が丸い安全仕様にリフォームしてくれていたこともあった。
でも、可愛いから全部許してしまう。

犬とは思えない気の強さを持つ子でもあった。
粗相を叱ったら、反省どころか牙をむいて唸って反抗してくるものだから、こちらも頭に血が上ってしまい、真剣に喧嘩をしてしまう。相手は犬なのに、まるで弟を相手にするかのように。

もちろん最後は人間が勝利を収めるのだが、ワンコは悔しさを爆発させ、スリッパに噛み付いてブンブン振り回して八つ当たりしていた。
そんな人間臭いワンコに、私は我が子を教育するかのごとく辛抱強くお説教したものだった。

ひたすら幸せな毎日。家族であり、我が子であり、彼氏のようなワンコ

おいで、と名前を呼んでも聞こえないふり。それでもしつこく呼び続けたらこちらへ来たと思いきや、脇をすーっと通過していく。
構って欲しそうに近寄ってきたから全力でわしゃわしゃしたのに、やはりうざくなったかぷいとそっぽを向いてどこかへ行ってしまう。

でもやっぱり構って欲しいから、お尻や背中を私の体にぴたっとつけて、時々ちらっとこちらを見上げてアピール。
ツン:デレ=9:1くらいの、筋金入りのツンデレなワンコだったが、どれだけ塩対応をされようとめげることなく、一心に愛情を注ぎ続けた。

その愛情は、幸いワンコにも伝わっていたようだった。
夜寝る時は、必ず私と一緒。さも自分の部屋のように大きな顔をして私の部屋に入り、勝手にベッドの上に飛び乗って、時には私の枕を使って大鼾で爆睡。何度ワンコの寝言で起こされたことか。

ジャンプや回転などの芸事やマテの命令も、私の言うことを1番よく聞いた。
ツンデレだから抱っこするときも一瞬嫌がる素振りを見せるものの、実は後足で床を蹴って、こちらが抱っこしやすいように工夫してくれていた。
分かりにくい相思相愛。お互いに大好きだった。

ワンコは、犬というペットの位置づけではあったが、大切な家族だった。弟であり、我が子であり、彼氏だった。
ワンコとの毎日は、ただひたすらに幸せだった。

ツンデレだけど寂しがり屋なワンコに、時間が許す限り寄り添った

犬の寿命は10数年。運命は残酷だ。
いつまでも生きるんじゃないかと錯覚するくらいわんぱくでやんちゃだったワンコも、15歳を曲がり角に、みるみる衰えていった。
どんなところもジャンプで届いた自慢の脚は、筋肉が半分以下となり、歩き方もヨロヨロとおぼつかない。

目も鼻も効かなくなったんだろう、床に落ちたおやつを探せなくなった。
食事量もどんどん細くなっていき、柔らかいものでないと食べられなくなった。
自力で寝返りを打てなくなり、夜中は2時間おきに身体の位置を変えてあげた。
そして自力で水を飲めなくなり、スポイトを使って口の中を潤してあげた。

嫌な思いをしないで欲しい。
苦しい思いをしないで欲しい。
そしてどうか、寂しい思いをしないで欲しい。
ツンデレだけど実は寂しがり屋で、ひとりぼっちが嫌いだったワンコ。時間が許す限りそばに寄り添い、愛情を伝え続けた。

2019年 冬。
ワンコが我が家に来てくれた時のようなカラッと晴れた良いお天気の朝、ワンコは虹の橋を渡っていった。
穏やかな顔で、ただ眠っているだけかのように、旅立っていった。
そして、我が家と私の心は空っぽになった。

私を構ってくれていたワンコへ。会いたい気持ちを胸に伝えたいこと

ワンコは寂しがり屋だから、構ってあげなきゃ。
それはただの名目で、逆に私がワンコに構ってもらっていたのだ。

寂しいときは、ワンコにちょっかいを出しさえすれば癒された。
辛いことがあったら、ワンコを抱きしめさえすればたちまち元気になれた。

こんなにもワンコを必要としていた、支えとしていた。
そのワンコが、いなくなってしまった。
私はこれから、どうやって生きていけばいいんだろう。
会いたいよ、ワンコ。

でも、悲しがってはいられない。
ワンコは私が泣いていたときはいつも、オロオロと顔を覗き込んできていた。天国で安らかに過ごしているワンコに、私のことを心配させる訳にはいかない。
だから、寂しいときも辛いときも、無理やり笑顔を作る。
心配してくれなくても、私は元気だから大丈夫よ、と。

ワンコ、天国で元気にしていますか?
先に旅立っていったお友達と再会できただろうから、寂しくないよね。
きっと祖母も出迎えてくれたでしょ、たくさんおやつを貰ってね。
あと何十年かしたら私もそちらへ行くけど、それまでちゃんと待ってくれる?
見た目は全然違うだろうけど、私を見つけてね。
私はワンコのことをすぐに見つけるから。
また一緒に遊んだりお昼寝したりしようね。

ワンコ、大好きだよ。