あえて言わないこと、それはごまんとある。
久しぶりに友人と会って、「あれ?ちょっと太ったかな?」。
誕生日プレゼントをいただいて、「あ、これ持ってる」。
悪気なく言われた一言に対して、「……悲しい……けど笑っとこう」。

あえて言わないでおくことはネガティブな内容が多い。傷つけないため、気を遣わせないため、もしくは、今後の人間関係のため。

男の子も女の子も関係なく、相手の一番魅力的な部分はあえて言わない

人々は一瞬のうちに、頭の中の言葉を空中に放るか、止めておくかを振り分けている。もちろん、私もその一人で。うっかり者な私は、時々放り出さないほうが良かった言葉まで投げつけてしまうこともあるけど、大抵の場合ポジティブな内容や褒め言葉は口に出して言うようにしている。

だけど、あえて言わないことがある。それは相手の一番魅力的な部分の話だ。男の子も女の子も関係なく、その人が私だけに投げかける魅力的な部分がある。

それを言われて嫌な人はいないと思う。「変なところすぎたら怒る人もいるかも」しれないけど、あえて言わない。口に出した途端に、私だけの気持ちじゃなくなる気がするからだ。

魅力的な部分を「あえて言わないこと」は、私のささやかな独占欲かも

たとえば、ある女の子。考えごとをする時に、眉間に寄ってしまうたくさんのシワが好きだ。もの凄く可愛い子なのに、その時の顔はあんまり可愛くない。シワはおでこにまで広がって、なんだか苦しそうにすら見える。

きっと彼女は自分のこんな表情知らないだろうな。今この瞬間、私だけがそれを見ているんだな。そう思うと、そのシワをずっと見つめていたいと思ったりする。

昔好きだった男の子。彼は腰とお尻の境目のところ、左寄りに小さなほくろがあった。体をひねれば何とか自分でも見えるかな、でも見えたとして彼自身は何とも思わないだろうな。

だらしなく履いたデニムがずり下がると、そのほくろは見えかくれした。「ちゃんと履きなよ」と言いながら、じっとほくろを見つめる。夜、腰の動きに合わせてうねるほくろを、私は想像していた。

私のささやかな独占欲なんだと思う。他の人にも、本人にも知ってほしくない。きっと私にも、私が知らない魅力的な部分があるんだろう。もし誰かがそう思っているなら、どうか言わないで欲しいなと思う。私が知らない私をずっと持ち続けて欲しい。

抗えない魅力がどこかに一部分でもあるとして、それをお互い死ぬまで内緒にしていたとしたら、なんかそれってすごくうっとりする。もしかしたらこういうのは、性癖みたいなものなのかもしれない。また、美学とも言えるもしれない。

夫の魅力に気づいたのは、私だけであって欲しいからあえて言わない

夫にもそれはある。彼は肩甲骨がすごくきれいだ。シャツの下に、大きくてよく動く肩甲骨が隠れている。後ろから見ると少し歪んでいて、完璧な対になっているわけではない。けど、そこがまた良いんだ。

私はよくその肩甲骨をなでる。何人かの女の人はこれを見て、そして何人かは私みたいになでたこともあるんだろう。

でもきっと、それだけだったんじゃないか。そうであって欲しい。この魅力に気づいたのは私だけであって欲しい。

だから彼が、肩甲骨を褒められた話なんて誰にもしないように、あえて言わない。言ってなんかやんないんだ。