コーヒーが好きだった彼は笑顔が素敵だった。
彼との出会いは、数年前のひまわりが咲いている時期。はじめから期間限定の恋であることは分かっていたが、すぐに彼に恋をした。彼と違い、コーヒーが飲めなかった私の片思いである。

コーヒー好きな彼を思い、さよならを。綺麗な思い出になるはずだった

私は、彼との別れが来ることを分かっていながら、恋心を告げず、シャープペンシルを握りしめ、彼との思い出を増やした。恋心を告げ苦い思い出になるのなら、綺麗な思い出だけにしたかったのだ。
彼との出会いから数ヶ月後の桜が咲き始めた時期。私は恋心ではなく、彼にさよならを告げた。コーヒーが飲めなかった私は、コーヒーが好きだった彼を思い、涙を流した。そしてさよならと共にこの恋を終わらせた。  

彼と会えなくなり、彼への恋心は、綺麗な思い出だけになるはずだった。しかし、恋心を告げなかった後悔と共に、苦い思い出にもなったのだ。
それでも彼との全ての思い出を大切にしようとした。この恋は、彼より恋い焦がれる人に出会ったら上書き保存されるだろうと思い、新しい恋も探した。だけれど、コーヒーが好きだった彼と比べてしまい上手くいかなかった。
私は、彼との思い出だけを大切にし、もう彼に恋はしていないと思い込んでいたのだ。彼を思い涙がこぼれた瞬間、私は彼に恋をし続けているのだと気付いた。

もう1度彼に会えたら、その1度だけで満足するのだろうか

時が流れ2021年7月。私はコーヒーが好きだった彼が今、どこで何をしているか分からない。
彼への恋心は、今も終わらないでいる。それは、恋心を告げなかった後悔なのか、彼を美化しているだけなのか、それとも彼との思い出にすがり、彼に会えない寂しさと恋心を勘違いしているだけかもしれない。
それでも、私は彼に今も恋をしている。

この恋は、彼にもう1度会えば変化があるかもしれない。彼を勝手に美化し、過去の思い出に恋焦がれていたのだと思うかもしれない。
だけど、私は、もう1度彼に会えたら、その1度だけで満足するのだろうか。きっと満足はしない。彼に会ったら、私は傷ついてでも彼のそばにいたい。誰かの幸せを壊してでも彼を手に入れたいと思っている。

彼を思うと、コーヒーが飲めなかった頃と変わらず、涙がこぼれる

醜い私にはなりたくない。彼に会い、涙と共に心のスットッパーが外れ、私が私でいられなくなってしまうのなら、彼に会わず、彼の中で思い出のままの私でいたいと思う。
彼に私の思い出なんて残っていないかもしれない。それでも過去の私を大切にしたい。だから今のままで良い。
なんて嘘だ。恋する気持ちだけで行動が出来たら、どんなに楽なのだろうかと何度も思い、彼に偶然会えたことを想像する。もう彼に会わないという思いと共に、もう1度彼に会いたいと願い続けている。
もし彼に会えたら「コーヒーが飲めるようになりました」と笑顔で伝えたい。そして「一緒にコーヒーを飲みませんか」と私は彼を誘う。そんなことを今も思い描いている。

コーヒーが飲めるようになった私は、あの頃より年齢、見た目、考え方、好きな音楽、好きな食べ物がアップデートされたが、彼は私の中で過去のままアップデートされていない。あの頃、使っていたシャープペンシルを握りしめると、彼の笑顔が今も浮かぶ。
そして私は彼を思うと、コーヒーが飲めなかった頃と変わらず、涙がこぼれる。彼を思い涙が枯れることが今もないのだ。
涙と共に彼への恋心を終わらせたくない、彼に恋をしていると、心と体から感じる。この涙が、コーヒーが飲めるようになった今でも彼に恋をしている理由だ。
彼を思い涙が枯れない限り、彼への恋心は終わらない。