終わらない恋の理由、その人にまつわるもの全てが酷く特別だったから。
恋も愛も知らない中学生の頃から、お酒を煽るようになった草臥れた大人になるまで、私の恋は終わることなく小さく浅く呼吸を繰り返しながら生きている。
クラスの中心人物、勉強もできてスポーツもできて、よく笑う彼が私にとっての初恋だった。
少女漫画みたいな恋。クラスの中心的人物に恋をした地味な女の子
クラスの女の子の誰もが、一度は彼を好きになったことだろう。
私は彼に話しかける勇気もなかった、彼の隣に座るだけで心臓は痛くなって、言葉なんて喉の奥底で何度も潰えた。
仲良くなれず、眩しいものを見つめるように遠くから彼を眺めていた。
クラスの端で見てるだけの地味な女の子が、クラスの中心的な人物に恋をする。
少女漫画みたいな恋だった、彼を想うだけで私は少なからず「女の子」になれた。
結末は漫画みたいなものにはなりはしなかった、彼に彼女が出来て、想いも言えず卒業して現在に至る。
彼の彼女は、よく笑い、周りに人が絶えない太陽のような明るさを持つクラスのムードメーカーの女の子だった。ああ、私とは正反対だなと、勝負したわけでもないのに密かに負けたなと一人静かに泣いていた。
あの日々は、私にとって全てが特別。特別だから終われないのだ
短な青春のなか、何気なしに彼が私にくれた当時流行っていたキャラクターのキーホルダーを、大人になった今も尚、捨てられずに手元にある。
きっと彼は覚えていない、覚えているはずがない。私だけが、まるで宝物のように忘れないように大切に覚えているだけに過ぎない。
こんなにも子供の頃の恋を捨てられず執着するなんて、頭が可笑しいにも程があると何度も否定しても、あの時のキーホルダーを捨てられない大人の私がいる。
答えなんて、分かりきっている。
幼いながらも、あの日々は私にとって全てが特別だった。
特別だったから、捨てられないのだ。
特別だったから、終われないのだ。
幻影に恋をするような感覚、その日々は日を追う事に掠れていくのに感情は消えてはくれない。
自分の好きな特別な男の子を、特別な感情で見つめ、少し大人になったつもりでいたあの夏の日々のような極彩色の青春を、燃え尽きんとばかりに後先考えず人を好きになれたあの初恋を。
「あの頃、君が誰よりも好きだった」彼と出会えれば伝えてみたいこと
言えなかった特別な想いは、私の中で死に絶える事なく、今も尚眠るように浅く呼吸を繰り返す。
あの時から、少なからず私は変われたのだろうか。
お洒落に興味がなかった地味な私が、自分の嫌いだった顔に魔法を施し、少しでも彼を好きでいても大丈夫だったと誰かに許されるような女性になれただろうか。
クラスで可愛いと持て囃される女の子になれたら、あの特別な日々の中で特別だった彼の隣に立てたのではないかと考えたことは少なからずある。
勝手にあの日々から動けなくなったのは、私だ。
いつか、何かの拍子に彼と出会うことがあったら伝えてみたいのだ。
「あの頃、君が誰よりも好きだった」のだと。
伝えることが出来れば、私の恋は漸く終えることができて、あの日々からやっと動けるような気がする。