私にとって終わらない恋の理由は、「執着」だった。それを身をもって知ってしまった。
こんな気持ちは知りたくなかった。ただ純粋に好きな気持ちだけの頃が一番楽しくてキラキラしてたなと、今になって思う。
好きだったN。私とNは、「友だち以上恋人未満」の関係だ
私には好きだった人がいる。「だった」と言うと過去になってしまうなと、ここまで書いて思った。たぶん今も好きだ。けれど、昔みたいな気持ちはもう相手には抱けない。だから「だった」でいいのかもしれない。
好きだった人……Nとは、友だち以上恋人未満の関係だ。付き合ってはいないけれど、昔はお互いに相手のことを好きだと言っていたし、Nから明確に他の子と違う扱いを受けていたから両想いだったんだと思う。
私にとってのNは一緒にいると楽しくて、ずっとそばにいたいと思える人だった。Nもそう思ってくれていたみたいで、よく私に会いに来てくれた。
私は人付き合いが得意な方ではないため、人と長い時間一緒にいると疲れてしまうのだけれど、Nとはそういうこともなかった。むしろ話が合うから、何時間でも平気なくらいだった。
離れている時間もNのことを考えてしまう。Nと一緒に行った場所を通るとNとのエピソードを思い出してしまうし、Nが好きだって言っていたお菓子をスーパーで見かけたら思わず商品棚に手を伸ばしたり、街で流れている曲を聴いてNのことを思い浮かべてしまったり。生活のあちこちにNの存在があった。
Nのことは好きだったけれど、これ以上の関係になりたいかと聞かれるとわからなかった。今の関係が心地よかった。だからか、私とNの関係に名前をつけたいとは思わなかった。名前のついた関係になる事によって、何かが変わるのが恐かったのかもしれない。
距離を置いても耐えられなくなって、結局私はNの元に戻ってしまう
Nと仲良くなってから、しばらくそんな毎日が続いた。幸せだった。でも何かがズレ始めていた事に、私は気づき始めていた。
ずっと一緒にいるからこそ、見えてくる部分だってある。まず、Nは新しいもの好きだったこと。それから執着心が強すぎることだ。
ずっとこのままそんな毎日が続いて欲しかった。でも、壊れる日が来た。Nが浮気をしていたことが発覚したのだ。
いや、付き合ってはいなかったから浮気とはいえないのかもしれない。でも、それが原因で私はNと距離を置いた。Nと私の生活があの子に塗り替えられていくのに耐えられなくなったから。幸せだったあの日々までもが、塗り替えられてしまいそうだったから。
結局あの後、Nは私の元に何事もなかったかのように戻ってきた。私はそれが許せなくて何回か距離を置こうとしたのだけれど、うまくはいかなかった。距離を置いても、心はちっとも追いついてきてはくれなかったのだった。
一緒にいる時間が長すぎたせいだと思う。Nが好きだと言っていたものを街の中で見かけただけで、楽しかった頃の記憶が頭の中をよぎって涙が出てきた。なんでもないことでもNの事が浮かんできてしまって、悲しい気持ちになってしまった。一緒に撮った写真は今もまともに見返せない。
そのせいで距離を置いても耐えられなくなって、結局Nの元に戻ってしまう。でも、私は今でもあのことを許していないし、あの日以来Nの事を恋愛的な意味では好きだと思えなくなってしまった。Nは私自身に、私は過去に執着していた。
あの時「関係」を終わらせていれば、今も苦しむ事なんかなかったのに
どうしてあの時、戻ってきたNに何も言えなかったのだろう。あの時関係を終わらせていれば、今も苦しむ事なんかなかったかもしれないのに。そう思ったことは何度だってある。
でも、Nが私のことを特別扱いするたび、「好き」とか「かわいい」とか言うたびに、満たされる気持ちになるのだ。Nに執着される事に自分が快感を感じているのは明らかだった。だから今もそれを求め続けてしまうのかもしれない。
ズルズルと引きずり続けるのもなんだかなあと思いつつも、つかず離れずの関係が今もダラダラと続いている。恋人になったとしても、新しさを求めるNが浮気をすることはわかっている。それに、私はNに対してはもう恋愛的な好意は持てないだろう。
だからこれ以上の関係になることも、おそらくはない。でも、離れたら苦しくなる。あの恋から始まった私たちの関係は、執着心に縛られただけのただの共依存に変わってしまったのだった。