終わらない恋の理由。きっとそれは、私の高校時代のすべてが詰まっているんだろう。

私が彼に出逢ったのは、中学三年生の春だった。初めて同じクラスになった。彼は人気者で面白くて、いつもたくさんの友達に囲まれて笑っていた。クラスでもよく発言をし、授業中に彼の言ったギャグでみんなが笑う。「楽しい人だな」。それが彼に対する最初の印象だった。

「小説家になりたい」という私の夢を笑わずに、応援してくれた彼

その頃の私には、小説家になるという夢があった。でも、それを笑われたことがあったのだ。「小説家になりたい」そう言ったとき、大きな口を開けて、手を叩いて笑った彼女たちの姿が、今でもまぶたの裏に焼き付いている。

そのとき私は思った。この夢は笑われる。言っちゃダメなんだ。恥ずかしくてたまらなかった。

そんなある日。クラス中によく聞こえる声で、一人の女の子が彼に言った。「ナギさんの夢って、小説家になることらしいよー」。そう言った女の子は、私の夢を笑った子たちの一人だったのだ。おわった。消えてなくなりたい。また、笑われると思った。彼もきっと、この夢を笑う。

そして、彼が言った。「へえー、すげえ!読んでみたいな。もしその小説がドラマ化したら、俺主演ね!」。クラスのみんながどっと笑った。私の夢に対してじゃなく、彼の言葉に。

私もいつの間にか笑っていた。彼のやさしい言葉に。その瞬間、彼は私のひだまりになった。勇気をだしてクラスのグループLINEから彼を友達追加した。そして、LINEでたわいもないことを話した。

でも、それだけだった。同じクラスなのに、私と彼が直接話したことは一度もなかった。考えてみれば、当たり前のことだったのかもしれない。彼はクラスの人気者、私はおとなしい地味な女だったから。気づけば、LINEでの会話も途切れてしまっていた。

私と彼は同じ高校へ進学し、彼を見るたびに心が踊って幸せな気分だった

時が経ち、私と彼は同じ高校に進学した。高校に入って、私と彼は大きく変わった。私は明るく陽気なキャラになり、一方で、彼は静かで落ち着いた一匹狼になった。中学とは違った、近寄りがたい雰囲気を醸し出して。

私の恋愛は、高校からスタートしたといってもいいだろう。私は彼に猛アタックした。LINEを再開し、彼の誕生日にプレゼントを渡し、夏まつりには一緒に写真を撮った。放課後の西日が温かく照らす屋上で、バレンタインチョコも渡した。

彼はやさしい人だった。私の(今思うと若干いきすぎたように感じる)アタックにも、いつも笑顔で接してくれた。くしゃっと笑い、少し低い声で「ありがとう」と言うのだ。

彼を目の前にすると、私は緊張でうまく声が出せない。笑顔が大事だって分かっているのに、ちゃんと笑えていたか分からない。でも、私の心にこびりついた不安は、彼が拭きとってくれる。私の大好きな、少年のような可愛らしい笑顔で。

朝、通学路で彼を見かけたときは、その日一日幸せな気分で過ごせた。彼のクラスの前を何回も通って、横目で教室を見た。彼の姿を確認する。心臓がサンバを踊り出す。

体育の時間、集会のとき、文化祭、体育祭などの行事。いつも彼を探していた。彼だけがたくさんの人の中で輝いて見えた。みんなが口を揃えてかっこいいという芸能人も、学年一のモテ男も、彼には敵わない。

だって、彼は世界で一番かっこよくてやさしい、私の大好きな人だから。そんなことを本気で思っていた高校時代の私。恋の魔法は恐ろしい。

だが、結果的にいえば、この恋が実ることはなかった。理由は簡単だ。私が想いを告げなかったから。

傷つくのが怖くて、「私の想い」を彼に伝えることはなかった

私は県外の大学へ進学。彼は一浪して、地元の大学へ。成人式に彼はいなかった。高校の卒業式、まっすぐ前だけ見据えて体育館に入場していく彼の横顔。これが彼に関する私の最後の記憶だ。

告白しなかった理由は、自分の心に負けたから。傷つくのが怖かった。ただ、それだけ。もし、高校時代に戻れるなら、LINEなんてものすっ飛ばして、私の全身に潜む度胸をむりやり集めて、彼に話しかければよかった。文字なんかじゃ分からない彼のことを、もっと貪欲に知るべきだった。

そして、私のことも、もっと知ってほしかった。毎日彼に会えるあの宝物みたいな毎日は永遠に続かないことに、早く気づくべきだった。大切なことはいつも終わったあとに押し寄せてくる。

私はきっとこれから先、別の人を好きになって、たくさんの恋愛をしていくのだろう。歳をとるたび、彼との思い出も、大好きだった彼の笑顔も、声も、顔も、何もかも忘れていくかもしれない。思い出せなくなる日が、きっとくる。

それでも、私はこの恋が終わらない理由を知っている。高校時代の私は、彼のおかげで幸せだったこと。彼を見ると、いつも私の中で鈴がさわやかになり、やさしい音色のそれが、きゅっと私の心臓をつかんでピンク色に染めてしまう。そんな、大好きな感覚があったこと。

これは、彼からの贈り物。この贈り物を見つめるたび、私はあの日々に何度も恋をするから。