タケルは深夜の1時になると必ず私の部屋を後にする。私は彼と一緒に朝を迎えられない。
彼は帰るべき場所があるのだ。
そう、私の恋人であるタケルは妻子持ち。私たちの関係は不倫だ。

週末の夜、私の恋愛事情を見かねた友人が、ちゃんとした男を紹介するといって合コンを開催してくれた。乗り気ではなかったが、友人の好意を裏切ることもできずに強制参加。しばらくして合コンが始まった。
テーブルを挟んだ向かいにいる3人は皆、有名大学卒大手企業勤務。とはいえ、タケルには及ばない。彼は大手芸能事務所の専務、年齢もあるけれど彼のスペックには敵わない。そんなことをつい考えてしまう。
最後の最後に友人のゴリ押しで1人の男性と連絡を交換することになったが、正直興味はなかった。

少しでも触れていたいのに。深夜12時50分、彼は帰る支度を始める

「ハルカ~」
店を出てしばらくすると、タケルが迎えに来た。
今日は私の家も遠いので近くのホテルに行くことに。タケルとの時間は1分1秒たりとも退屈しない。少しでも彼といたい、触れていたいのに時間は限られている。
深夜の12時50分。彼は帰る支度を始める。
「ねぇ、私たちもう2年一緒にいるんだよ」

なんとなく、今日はずっとタケルと一緒にいたかった。
「そうだね、2年記念してなかったから今度、行きたがってたレストラン予約しとくよ」
普通の女子なら2年記念日を高級レストランでお祝いなんて最高だ。しかし私は違う。
「ありがとう。でも一日くらい一緒にいれたりしない?朝までずっと」
できれば今日がいい。今日は合コンで友人や見知らぬ男に気を遣って疲れた。彼に癒やされたい。彼の腕の中で眠りたい。
「朝までは厳しいかなー、さすがに」
彼は靴を履きながら残念そうに言った。
「そっか。そうだよね、じゃまた」
「ああ、また連絡する」
タケルは手を振りながら出て行った。

普段なら絶対に乗らない誘いも、今日は隣に誰かいてほしくてOKした

深夜に広いホテルで一人きり。寂しい。
「タケル……」。どれだけ彼の名前を呼んでも彼は戻ってこない。
すると突然携帯が鳴った。LINE電話だった。
「はい……」
「あ、先程はどうも木崎です」
まさかの、さっき合コンで連絡先を交換した相手だった。
「あの後男性陣と飲み直して、まだ六本木いるんですけど、ハルカさんもこの辺りまだいたりしませんか?」
酔った勢いで飲みの誘いだった。普段は絶対に乗らないけど、今日は隣に誰かいてほしかったのでOKした。
「実は、わたし家が遠くて、帰るのしんどくてホテル取ったんですよ。よかったら部屋で一緒に飲みませんか?」

木崎君とは合コン出会ったその日、一夜を一緒に過ごした。それからLINEなどのやりとりを重ねるうちに私は徐々に彼に惹かれていった。
一緒にランチに行ったり、旅行に行ったり、木崎君は不倫であるタケルには埋められない心の穴を埋めてくれた。
告白は木崎君からだった。結婚前提に付き合ってほしいと。
正直少し迷った。木崎君と会うようになってからも、タケルに対する気持ちは変わらなかった。むしろ木崎君と会っている間はタケルに会えないため、思いは膨れ上がる一方。だから木崎君と付き合いながらも、私はタケルと会っていた。彼との関係を終わらせることはできなかったのだ。
しかし、木崎君に浮気を隠すことはできなかった。

「ハルカは俺とあいつどっちが好きなんだ?」。私は何も言い返せない

「なぁ、俺以外に他に男いるよね?」
木崎君は私の部屋に来て早々、重い空気を醸しながら口を開く。
「え?なんで?」
「このあいだハルカの家の近くにきたとき、男入れてるの見たんだよ。友達や身内の雰囲気もなかったし、これ浮気だなって」
私がタケルを部屋に入れるところを見られていた。現場を見られていたので言い訳することもできない。
「そうだよ」
私は潔く浮気を認めた。
「まじかよ!否定くらいしてくれよ!嘘だと思いたかった!」
木崎君は取り乱していた。
「ごめんなさい」
私が悪い。

「ハルカは俺とあいつ本当はどっちが好きなんだ?」
「……」
私は何も言い返せなかった。正直、今の私は木崎君を失うよりもタケルを失う方が怖い。
「もういい、別れよう」
「ちょ、ちょっとまって」
答えを出せない私に呆れて、出て行ってしまった。私は追いかけなかった。
追いかけていたら、寄りは戻せたかもしれない。だけど正直、追いかけるほど木崎君を引き止める気にはなれなかった。

「こんなこと前にもあったけ……」
実は、タケル以外の男性と付き合って、タケルとの関係がバレて別れたのは今回が初めてじゃない。半年前、一年前も同じことがあった。
毎回、彼を忘れるために他の男と付き合うが、上手くいかない。「不倫ってほんと沼…」その度に私は不倫のせいにした。全部不倫が悪い。
そして私は今夜も妻子持ちの愛しい彼をベッドの上で待つ。