東京で生きるようになって7年目。苦しかった就活をなんとか乗り越えて、念願の出版社へ就職することができた。一通りの仕事を覚え、2年目はもっと仕事を頑張るぞと思った矢先の事だった。
私達はマスクをしなければ外で安心して呼吸すらできない現実に、ただただ従うしかなかった。慣れないリモートワークに、日々増える数字、知らないうちにストレスは溜まっていたのだと思う。
滅多に私から連絡を取ることがなかった母へ電話を掛けることが増えた。
私がウイルスを持っていないなら、今すぐ田舎の母に会いに行きたい
私の生まれ育った故郷、宮城で母は今も生きている。女手一つで姉と私を育てた母は、私達姉妹を育てた借家で今も生活している。
最後に帰れたのは、2020年のお正月。次のゴールデンウィークにはまた帰ると思っていたので、そそくさと帰京してしまった。
2021年のお正月は帰省を諦めたため、初めて東京で迎えた。彼が一緒にいてくれる事になったから帰らない事にすると伝えた電話越しに、母はとても残念そうな声で、「一人で東京は寂しいと思ったから安心したよ」と言った。母は一人で新年を迎えた。
もし、私が今100%ウイルスを持っていないのなら、新幹線に乗って、今すぐに母に会いに行きたい。周りに田んぼと山しかない実家に帰って、お腹いっぱい母の料理を食べて、私が住む東京の家のお風呂よりずっと小さい湯船に浸かりたい。
お風呂上がりには畳に寝転がって、網戸から入ってくる涼しい風を感じながら真昼間から昼寝をしたい。大好きだった祖父母のお墓参りに行けたら、久しぶり過ぎてきっと泣いてしまうかもしれないけど、「東京で楽しくやってるよ」と少しだけ大袈裟に報告したい。
みんながみんな、いっぱいいっぱいな今日この頃なのだと思う
帰りたい。帰りたいけれど、大好きだから帰れない。暗いニュースばかりな気がして、絶えず流れるニュースに腹を立てて、私はずっと帰りたいと思っている。
朝の満員電車に乗ると、乗り合わせた人たちのストレスを感じる。みんながみんな、いっぱいいっぱいな今日この頃なのだと思う。
2回目の予防接種が済んだという母からの連絡に、今年のお正月こそは帰れますようにと願う。東京で必死に生きるみなさんが、心の底からホッとできる場所に、今年こそは帰れますようにと願う。
がんばれ、私。がんばれ、お母さん。がんばれ、みんな。
25歳のいい大人が、母に会いたくて泣く。今の世界はそんな状況だ
出口の見えないトンネルは不安で堪らないけれど。私は帰りたい。私が生まれ育った故郷に帰りたい。
大袈裟ではなく、必ず生きて帰りたい。その気持ちが光となると、今はただ信じる事しかできない。
きっとこの夜が明けるまでは、まだ時間がかかるだろう。きっと私はそれまでに何回か泣いてしまうと思う。25歳のいい大人が、母に会いたくて泣くのだ。
世界は今そんな状況なのだ。だから、それまでは、さよなら故郷。