「彼はわたしが好きですか?」
心で唱えて、えいっ。画面上でタロットがシャッフルされて、一枚めくれと促してくる。画面上で指を動かし、何となくピンときたものをタップする。
死神のカードか~~~!!
ノーじゃん!!嘘でしょ?もう一回!!
こんなことを繰り返して、今年の夏がもう終わろうとしている。
つまるところ、夏のわたしはダメだった。
全力疾走で駆け抜けた数か月。最高だったはず私は突然ダメになった
春先からお盆まで、今年度のわたしは絶好調だった。憧れていた先輩と良い感じになったし、仕事でいくつか大きな成果を上げて、毎朝早起きとお弁当作りに成功し、週末ごとに美味しいお店を開拓し、毎月十冊以上本を読んで世界を広げ、十年以内に達成したい明確な目標ができた。
ああわたしって最高!
自己肯定感マックスの状態で迎えたお盆休み、なぜか急にダメになってしまった。
全力疾走でしばらく走っていたら、プツリと何かが切れて止まってしまう。思い返すと数年おきにその現象は起きていて、いつも明確な原因がわからない。
なぜか何もかもへのやる気を失い、ベッドに這いつくばって息だけする日々。市販の睡眠薬をガバガバ飲んで布団を被ったのに、結局朝までスマホを見てしまう日々。
あー、このお盆に読む予定だった本がたくさん積んであって、作り置きのお弁当のおかずは箸をつけられることなく冷蔵庫に眠り、目標のためにやらないといけない勉強のテキストは真っ白なまま。
どうしてこうなっちゃうんだ?
あ、ドリエルが切れた、買いに行かなきゃ。
ダメになると、なぜか私は無料の占いサイトにかじりついてしまう
「わたしの目標は叶いますか?」
タロットが動く。一枚選ぶ。ワールドのカードで、圧倒的絶好調のイエス!
やったぜ!
ぜんぜんダメになってしまうと、わたしはなぜか、当たりもしない無料の占いサイトにかじりついてしまう。中学生の頃からのくせで、大手の無料占いサイトはこの十年でほとんど網羅したんじゃなかろうか。
多くの人に同じ結果が与えられるようなくだらないタロットカードをめくり続けて、現状ダメな自分に訪れるはずの明るい未来を夢想する。
だって世の中には、わからないことが多すぎる。勉強してもしてもわからない。シラフのくせに頬にキスをしてきた同期の男はわたしをどう思っているのかは聞けないし、目標を掲げて勉強しても上手く事が運ぶかわからないし、わたしはいつ死ぬのか早く誰か教えてよ。
こんな不確実な世界ですがれるもの、たとえば安定した実家や信頼し合う恋人、莫大なお金なんかを持たないわたしのような人間に与えられる明るい未来なんて、訪れそうにないじゃないか。だからタロットに聞いてみる。
明るい未来が想像できない世界で、期待しながらめくるタロット
ああ今年の夏はダメだった。あんなに素晴らしかったわたしはどこに行ってしまったんだろう。
一歩外に出ると灼熱地獄だし、オリンピックは一秒も観てないし、相変わらずウイルスがだるい。明るい未来なんて想像できない悲惨な世界で、わずかばかりの楽しい出来事が起きないか期待して、タロットをめくる。
「今年の夏は彼氏ができますか?」
皇帝のカード、やったねイエス!
あともう少しで夏は終わるけど、大丈夫そ?
そんなことしてないで、あのテキストを開いたら?積んである本を読み始めたら?布団に入ってスマホを見るのをやめれば、ドリエルもいらないんじゃない?
皇帝のカードがそう言っているように見えるけど、また無視してシャッフル開始。
ああ、今年の夏はダメだった。