大学生になって人生初めての彼氏。付き合い始めたのは真夏の縁日の夜。お互い、両思いかもしれないと半信半疑だった。母親に縁日へ行くと伝えたら、翌朝、日本間に浴衣がハンガーで吊るされていた。まだそういう関係に発展したわけではないのに、気が早い。けれど、友情は既に成立していなかった。

「考える事が同じだね」お互いに恋文を書いて始まった私たち

大学の近くで催される縁日へ行くのは彼の提案だった。その日の夜、待ち合わせには浴衣姿の彼がいた。私服で来ていた私を見た彼は、少し残念そうな顔。「浴衣姿が見たい」と言ってくれた彼の期待に添えない服装だからだと思う。最後まで悩んだ末のワンピース。
この日のために手紙を書いた。自分の口から「好きです」と言える自信がなくて、用意した恋文。浴衣は着たかったけれど、食い意地が強い私には不釣り合い。浴衣は見送って彼と過ごす時間を大切にしたかった。

ある程度の時間が経過して、腕時計に目を向ける。夜の8時半を回っていた。屋台で少し食べてからちゃんと食べようと、駅前まで歩いてファミリーレストランで夕飯を食べた。
その時に私は手紙を渡した。それを見た彼は照れながら笑いつつ、「何でだよ……」と言う。そうして彼もまた、手紙を出したのである。この時は「私たちは考える事が同じだね」と笑い合うのが楽しかった。

彼の行動が気になり始めたけど、別れるとは言い出せなかった

付き合い始めて3ヶ月。彼の私に対する行動が気になり始めていた。でも、別れる理由としては、甘くて言い出せなかった。言い出せないうちに「年末に旅行しよう」という話が出る。彼は温泉が好きで、どうしても行きたい場所があるんだと熱弁してきた。

気が進まずにいると、「急がないから心配しないで」と声を掛けてくれた。私の心中を察したつもりだったのだろう。彼は私が付き合って4人目の彼女だと言っていた。私には「だからどうしたの?」という言葉しか出てこないのだが、要するに「身を委ねてくれ」と言いたいのだと思う。
4人目で童貞なのに、身を委ねるなんてできない。リスクマネジメントを怠ると、人生が急転直下してしまう。旅行への不安を抱えつつ、「断る理由なんてないだろ」と言われて「もう予約しといたから」と逃げ場がなかった。

「やめてよ、こういうの」いきなりのスキンシップには抵抗がある

旅行初日は朝が早くてホテルに着いたのは夕方の5時半。それぞれで温泉に入り、夕飯はバイキング形式だった。頑張って嫌われようと自分の食い意地を利用して、カニを沢山食べた。ドン引きして冷めて欲しい。熱されやすい分、冷めやすいタイミングは今しかないと確信した。しかし、私の想いも虚しく彼に届かなかった。
初日の夜は朝が早くて疲れていた。私が彼に背中を向けた体勢で、ベッドに寝ていると、「何でこっち向いてくれないの?」と彼が話しかけてくる。なんて返せばいいかわからず、黙っていた。すると、彼は、「そっちのベッド行ってもいいよな?」と一言。私が答える前に布団の中まで入ってきた。

無理矢理に顔を向かせられて、怖くて目を瞑る。彼の唇が重なった。予告なしのキスは好まないと、あれだけ言ったのに約束を破られた。私は顔から火が出そうな赤い顔で、「ホントにやめてよ、こういうの」と泣きながら呟いた。
さすがの彼も「ごめん、好きすぎて襲いたくなった」とそれから先の性行為には進まなかった。彼のセリフは少女漫画でよく見聞きしている。実際に言われると、なんだか気持ち悪い。いくら好きな人だとはいえ、いきなりのスキンシップには抵抗がある。
それに、旅行のタイミングも間違えていたのだと悟った。旅行初日の夜は、彼のそばにいると危ないという気持ちと鼾のせいで、ユニットバスに移動して布団にくるまった。

嫌だと言ってもやめてくれなかったことが、どれだけストレスだったか

あの夜、彼に襲われそうになったから、この恋にピリオドを打つことが出来た。旅行から帰宅して、新年を迎える。三が日を過ぎたあたりで、別れ話のさわりを彼にLINEした。
彼は当たり前のように「LINEで終わらせようとするな」と逆ギレをしてきた。その後も納得できない彼からの着信が何度も鳴った。私は我慢できずにスマホの電源を切って、ベッドに投げつける。

翌日。スマホの電源を付けると、LINEの通知と不在着信が50件も入っていた。ちゃんと話した上でお別れしたいと改めてLINEで伝える。別れたいと思った理由から説明した。デートの時に盗撮してくること、毎日「好きだよ」とLINEを送ってくること、テスト前なのに容赦なく会いたいという我儘を言うこと……。
嫌だと言ってもやめてくれなかったことがどれだけストレスだったか。一通り、理由を挙げてから電話越しに別れを告げた。「別れたくない」と言われても、「もう好きじゃないから、ごめんなさい」と伝えて彼のLINEと連絡先を全て消した。