年末一掃セール!の看板が街を埋め、行き交う人々がいつもより少し早歩きで改札を通って行く中、私は4年間付き合った彼からふられた。コロナで会えない彼からのLINEは「これ以上はないと思った。別れた方がいいと思った」だった。スマホの着信を確認したまま全身の力が抜けたようにただぼうっとしてしまった。

周りからも仲良しカップルと言われていた私たちは、歳の差が5つあったものの何でも話せるふたりだった。何をしても楽しく、喧嘩すらお互いをより知れる機会だと思えた。何でも許せたし、何に対しても希望を抱けた。「だって、これから死ぬまでの何十年間を一緒に過ごすんだもの」と思っていたからだ。

忘れられると思った彼の姿は記憶からなかなか消えてくれない

もともと遠距離恋愛にコロナでの自粛が重なり会えなかったため、ふられた後もいつもと変わらない日々だった。ただ、スマホをスクロールすると、ふたりで撮った4年分の写真が出て来る。本当は見たくないのについ目に止まる。そのままどんどん昔の写真へと遡っていき、綺麗なまま残った写真に対し、悲しい現実に心が荒んでいく。もう消してしまおう、そう思い4年間の写真を2時間で全て消した。写真も良い思い出として残しておくことができないほど、自分が悲しんでいるんだと思った。写真を全て消し、これで “思い出” と別れられると思った。そのままの勢いでSNSのフォローを外し、電話番号も消した。スマホを閉じ、ポケットに入れたとき、これでもう忘れられると思った。悲しまなくて済むと思った。

しかし、忘れられると思った彼の姿は記憶からなかなか消えてくれない。さらに、日に日に悲しみは増えていくばかりだ。

「ねえ、結婚したら子どもは2人欲しいよね」
「あ、でもその前に猫を飼いたいね」
「結婚しても毎年旅行に行こう」
「忙しくて行けなかったら都内のホテルにでも泊まろう」

ふたりくっつきながら話した “将来” が記憶の中で再生される。あなたのことが好きだったよ、と私は記憶の中で答える。しかし、その答えに返事は無く、私は涙を流す。すると目が覚め、さっきまで見ていたものが夢だったということがあった。

私をふって、それでも楽しそうにしていたら許せない

ふたりの写真は2時間で消えたのに、4年間の思い出は消えない。ある人は「みんな乗り越えてんだよ」と言っていた。だけど、彼と過ごした時のことを思い出してしまうことが怖い。よく彼と夜更かしをして昼過ぎに起きていたが、別れてからは早起きしかできなくなった。彼のためによく作っていた湯葉丼もホタルイカを入れたカレーも作れない。もうマーベルも見たくないし、漫画もゲームも嫌になった。長い恋愛の末に訪れる別れは、残酷すぎないか。

「ねえ、なんで私をふったの?」

ふたりでいればずっと楽しかったはずだと思う。こんなに相性の良いパートナーは現れないよと罵りたい。私をふって、それでも楽しそうにしていたら許せない。「これ以上はない」ってなんなの!

だけど、ふられた理由が曖昧なことに今は少し感謝している。私は、「これ以上はないと思った。別れた方がいいと思った」の言葉には傷つかなかったからだ。彼なりの優しさだったのだろうか。

長い恋愛の末に訪れる別れは、残酷だ

それからしばらくして、彼の家に残してきた荷物が届いた。段ボールにパンパンに詰められた荷物の中から彼の匂いがした。いつかこの匂いも無くなるだろう。その頃には、彼への未練も無くなり、昼過ぎに起きる日がくるだろうか。

長い恋愛の末に訪れる別れは、残酷だ。だけど、永遠を誓い、期待通りにいかない。それが恋愛なのだと思った。