まだ、マスク着用が部分的に義務化されていた頃、私はメイクをする時に必ず口紅だけはグロスを付けて膨らみと照りを作り込んでいた。
口紅、口元だけは相手と顔を合わせた瞬間、見られる顔の一部。それゆえ、アイシャドウを乗せる時間はなくても口紅をする時間だけは確保したいと、強く譲れない。
揺れるイヤリングもペンダントも同じくらい好き。けれど、自分に似合うかどうかは自信が持てない。口紅だけは違う。口紅だけは私に、その人それぞれに味方してくれるのだと思う。

赤い色の口紅は本気度が試される。バランスが難しいアイテム

メーカーによって色の出方は異なるけれど、中には体温で色が変化するものが存在する。商品のサンプルを見た限りでは薄めの色合いでも、その人の体温やその日の気温で色が変わる。口紅だけはそういった性質が許されるのかもしれない。
腫れぼったい唇がコンプレックスの人気女優は、「魔性の唇」と称されて世間から羨ましがられている。彼女のように潤いがあって厚みのある、魅惑の唇を作ろうと試行錯誤している人は多い。私もその1人だ。
本人があるトークバラエティで、「リップクリームを塗って口紅自体は、付けたらティッシュオフをしてからグロスを真ん中だけ塗ります」と語っていた。インターネットに載せてある真似したい女優メイクで、抑えておきたいポイントに挙げられていた。
細かいところまで研究された人の女優再現メイクは、本気が試される。リップの色味は赤。なかなか堂々と付けられる色味ではないし、私自身が今までに持っていない色でもある。アイシャドウとのバランスを考えなければいけない。

どんなに手を抜いても、口紅だけでメイクは楽しめる

大学時代はどんなに手を抜いたメイクでも、口紅だけは楽しんでいた。初めて赤いリップを買った時のドキドキした気持ちは今も忘れない。私よりメイクキャリアの長いサークルの同級生には、鼻で笑われたし、「頭大丈夫? 似合ってないから赤リップやめた方がいいよ」と言われた。
色味さえ気を付ければ良い。あの時、鼻で笑ってきた人に感謝をしよう。おかげで色味のコントロールが重要だと学んだんだ。赤リップは確かに単体では主張が強いわけだから、ピンクベージュのグロスを重ねて調整する必要がある。同じメーカーのもので揃えたい。この際だから、赤リップを付けると決めている日はアイシャドウの系統も固定していこう。
最初はメイクの時間が20分かかっていたが、前持って決めておいたからか、10分に短縮できるようになった。たまに、その日の気分で急な変更もあるし、天気によって変えることもあるけれど、口紅だけでここまでメイクが楽しめるとは思っていなかった。
社会人になって、重要視されているのは目元かもしれない。新型コロナウィルスの影響でマスクが外せない中、口元は隠れてしまう。代わりに眉毛が注目を浴びるだろう。以前はペンシルを使っていた私もパウダーに変えて、眉メイクに気を遣っている。髪色と離れすぎない色で肌馴染みが良いパウダーパレットは使いやすい。

せっかく魅せるなら。少し背伸びしてでも高めの口紅を買い揃えた

ファンデの代わりに、肌をカバーできるのは何だろうと悩む事もあった。細かいものに関しては疎いので、勉強不足なのが痛い。額から鼻筋までのピンポイントをカバーする人が多いらしい。下調べをしてクチコミを見てから買うかどうかを決める。なるべくなら持ち歩けるサイズが望ましかった。
近所のショッピングモールで、奇跡は起きる。「このブランドから出てるんだ。良かった、これなら肌荒れの心配はない」。見つけた時は思わず声が出てしまった。使ってみる価値は十分にある。それはマスクメイクの強い味方だった。持ち歩けて使いやすいトーンアップアイテム。親指サイズで値段も良い。
今ではこのトーンアップアイテムと口紅が私を華やかにしてくれている。口紅だけは譲れない。「せっかく魅せるなら」と、少し背伸びして高めの口紅まで買い揃えた。
あと2年はつける機会が巡って来ないかもしれないけれど、モチベーションを上げるため、維持するためには今からでも積極的につけて街を歩きたいと思う。