ファッション雑誌の中できらきらと輝く同い年のモデルさんたち。おしゃれな髪形、綺麗な顔。
そしてかわいい洋服。私はあこがれを抱いていた。

おしゃれしたい気持ちが出ても自信がなく、両親に言い出せずにいた

バレエ、ピアノ、塾……と忙しい日々を過ごしていた私は、なかなかおしゃれを楽しむことはなかった。髪の毛はオールバックにポニーテールかシニヨンヘア。レッスンや塾の行き来はシンプルなワンピースか制服。
打ち上げやパーティーで着る親子3人お揃いのワンピースだけが、雑誌で見るようなかわいい洋服だった。

そんな私も中学生になるといままでよりも「おしゃれしたい……」という気持ちが大きくなっていたが、両親にもなかなか言い出せずにいた。そもそも顔に自信がない。
いつも周りから言われることは、
「妹さんのほうがかわいい」
「妹さんかわいいね!お姉さんのあなたとは違うね!」
両親が常に溺愛しているのも妹。なおさら言い出せなかった。

仲が良いと思っていた友人たちと出かけた次の日、
「あれでかわいいと思っているのは終わっているでしょ」
「いやあ顔も服もダサい」
陰口を聞いてしまった。2つの小学校から入学してくる中学校でようやくお隣の小学校出身の人と仲良くなれたと思ったのに……。

おしゃれに無頓着な父が、私のために車をとばして買ってくれた洋服

「ここの洋服を着てみたいかい?」
ショッピングモールのショーウィンドウの前でポツンとたたずむ私に、父は声をかけた。
父もあまりおしゃれに興味はない。そもそも私に対しての興味もほとんどないはず。
父は珍しく私のことに対していろいろ調べてくれたのだろう。
ある日の塾帰りに車をとばして、ショッピングモールに連れて行ってくれた。
おしゃれな雰囲気のお店で父もお店の方もいろんな組み合わせを考えてくれた。
試しに……とお店の方が帽子とブーツも合わせてくれた。
たしかに好きだけど……さすがに全て買ってもらえないだろう。
しかし父は思わぬ返事をした。おしゃれに無頓着な父が。普段あまり私の事に興味のない父が。
「帽子からブーツ。すべて購入します。」
私は驚いた。昨日はテストの点数の落ち方に、そこら中にあったものを私めがけて投げてきた父が。いつも妹ばかりに甘い父が。私のためにすべてを買ってくれる。
嬉しかった。家で記念に……と着て写真を撮ってからもなかなか袖を通せなかった。
次第に日常から着るようになった。着ていくうちにレース素材のスカートはボロボロに、トップスには毛玉が目立つようになっていた。

その洋服はもう着られない。ブーツもサイズオーバーして履けない。帽子は被るタイミングがなかなかわからないが、いまもすべて取ってある。
他の洋服は捨てたり、フリマアプリに出品できたりしても、あの服たちは捨てられない。他人に譲れない。私よりかわいらしい服が似合う妹にももちろん譲っていない。
たとえボロボロになろうと、年相応の服ではなかろうとあの時買ってもらった服は、私の大切な思い出の一着だ。