澄み渡った空に星が輝く。私の心は真っ暗なのに。涙が頬をつたう。
「あれ、今週泣くのは何回目だっけ」
会社の帰り道。電車を降りて家まで歩く10分間。時計の針は23時を過ぎていた。新卒2年目の秋、人材会社に勤務する私は毎日馬車馬のように働いていた。
別に入りたかった会社ではない
最初に内定をもらえた会社に就職。全力で働く毎日は刺激的だった
マスコミとか、旅行代理店とか、もう少し煌びやかな業界に憧れていたが、結局一番最初に内定をもらえた今の会社に決めて、就活は終了した。
人を扱う仕事は思ったよりも楽しくて、同期にも先輩にも恵まれて、全力で働く毎日が楽しかった。
飛び込み営業が辛いなんて言葉は、誰かが振りまいた嘘だと思えるくらい、毎日いろんな会社に飛び込んで、新しい人と出会って、いろんな話が聞けて、刺激があって、楽しかった。
……楽しかったのは1年目だけだったかもしれない。
仕事に慣れてくると、担当先もどんどん増えて忙しくなるし、帰りの時間も遅くなった。いっぱいいっぱいになると、私の心の容量を超えてしまうと、仕事の帰り道涙がでるようになった。涙を流す10分間の帰り道。
今までの人生で泣いた経験は、部活の試合で負けた時とか、練習の成果が発揮できない時とか、悔し涙の方が多かった。
やりがいだってあるのに、悲しくもないのに、なぜだか涙が出る毎日
週5日勤務。家についてもご飯を食べて寝るだけの生活。どんどん疲弊していった。
私よりたくさん働いている人はいっぱいいるはずなのに。私より辛い人はいっぱいいるはずなのに。帰れるだけマシなはずなのに。
やりがいだってそこそこあるし、嫌なことがあったわけでもないのに、悲しくもないのに、悔しくもないのに、なのに何故だか涙がでる。私の容量ってこんなに少ないのかな。
毎日めそめそ泣いて、強かったはずの私がどんどん弱くなっている気がした。誰にも見せずに、ただ星の見える真っ暗な帰り道を歩いた。
「そうだ、夜は心が弱くなるんだ」
「今さ、ちょうど営業職募集してて」
ある日、取引先で声をかけられた。人の紹介や斡旋を行うため、相手は人事部や総務部の方。話はとんとん拍子で進んで気づいたら私は転職していた。気づいたら星の見える田舎から、ビルの光が眩しい東京で働いていた。
あの夜があったから。私は涙と共に強くなっているのかもしれない
そしてまた2年目に差しかかった冬。
止まらない涙の日々が始まった。
高圧的な上司の言葉に会議中涙が止まらなくなった。それ以来仕事をしてても、優しい取引先の人と話をしてても、怒られていなくても涙が止まらなくなった。1日の半分は泣いていたかもしれない。悲しくもないのに勝手に溢れ出てくる涙。
「あぁ、夜だから心が弱くなるんじゃなかったんだ」
明るい太陽の下でも涙は溢れ出た。
私は弱い人間だ。
ことあるごとに涙を流す。
あの夜から始まった私の涙のダムは、定期的に溢れ出るようになった。
2回目の洪水は流石に動揺したけれど、5年目になった私は、もう洪水が起きても気にならない。「あ、また止まらない時期が来た」くらいにしか思わない。
あの夜があったから。
もしかしたら私は少しずつ強くなっているのかもしれない。涙とともに。