「この度は弊社にご応募いただき誠にありがとうございます。慎重に選考を進めさせていただきました結果ですが、誠に残念ながら……」。
メールを閉じて、そのまま布団に倒れこんだ。わかっていたことだ。慣れているはずだ。
それでも、心に大きなおもりを抱えたかのように体が重たい。

またダメだったらどうしよう。不安で胸が痛む就職活動

ついこないだの面接が何度もフラッシュバックする。考えてはいけない。そう思っていても何度も頭をよぎって胸がずきりと痛む。何がいけなかったのだろう、と心の中で考える。
理由を挙げたってしかたがない。不採用の知らせを知った母から二つのビックリマークがついた、「切り替えて次探そう」というメッセージ。終わりのない「次」は容赦なく続く。
重たい体を起こし、再び携帯電話を掴む。画面に写る求人情報を見つめてスクロールしていく。今度こそ「次」を見つけよう。唇をぎゅっと結び、食い入るように画面を見つめる。でもなぜだろう。目頭が熱くなり、画面がぼやけていく。

またダメだったらどうしよう。またダメだったら。歩くと、かつんかつんと規則正しく響き渡るパンプスも、上から下まで私を舐めるように見つめる面接官も、頭にこびりついて離れない。
もしまたダメだった時、私は再び立ち上がることができるのだろうか。傷つくのがこわい。けれど、二十歳なんてとっくに過ぎた私には本当は傷つく権利なんてないのかもしれない。

なぜなら、働くことは成人した者の義務なのだから。履歴書を送り、いくつもの試験や面接を乗り越え、その狭き門を突破した者を「大人」と呼ぶのであれば、いったい私は誰なのだろうか。
いつまでも履きなれないパンプスを脱ぐと、何枚もの絆創膏を重ねたくるぶしがひりひりと痛む。

「この会社のためになにができる?」という質問が常に付きまとう

働いている人はえらい。いつからか、そう思うようになった。書店を並んで歩いていた友人がふと、目にとまった「コンサルタント」という文字に顔をしかめた。
「ああ、やだな。明日からまた仕事じゃん」。仕事。なんだか遠い異国の話のように聞こえた。彼女は狭き門をくぐり、「大人」として働いている。「すごいよ、毎日ちゃんと行ってるなんて」と答えた。他になんと言えばよかったのだろうか。

働きたくないわけじゃない。だけど、心が重くてこんなにも泣きたくなるのはなぜだろう。「合否の連絡」を待機するあの地獄のような日々を思い出すだけで息が詰まる。眠っていても夢に出てくるのは不採用通知を受け取ったみじめで情けない自分の背中。せめて眠っているときくらい何も考えずにいたい。
以前、私のスーツ姿を見て友人は言った。「紺のスーツはちょっとね。黒がないなら貸してあげようか」。髪色、スーツ、バッグは黒一色。それが就活の基本。おまけに最近は就活用メイク講座まで開かれている。就活セミナーでは誰もが同じ格好で、同じ無表情な顔で誰も空気を乱さない。なのに、「誰にでもできる」仕事は求められない。
「この会社のために君はなにができる?」という質問が常に付きまとう。求められるのは、面白くて型破りな答え。「矛盾してるじゃん」という私の言葉に友人は困った顔で笑った。

大人の階段をのぼっていく友人たちを見て、自分の未来がこわくなる

世の中は理不尽なことだらけだし、若い頃の苦労は買ってでもするべきだって大人は言うけれど、本当にそうなのだろうか。その先の未来は誰が保証してくれるのだろう。
そもそも私にとって幸せとは何か、それすらもわからなくなってしまったように思う。仕事を探す、それだけが前のめりになっていき、もはや自分が何をしたいかなんて考えるだけで贅沢なことのように思えてくる。

着々と大人の階段をのぼっていく友人たちを見て、自分の未来がこわくなる。いつかひとり取り残されたらどうしようと不安だけが募っていく。
あるとき、ショーウィンドウにずらりと並んだ色とりどりの洋服が目に入った。おもわず手を伸ばしかけたが、はっとしてすぐに手を引っ込めた。洋服を買うお金なんてないのに、あなたにあの洋服を着る資格はない、そう誰かに言われているような気がしてならなかった。
私は、すぐさま踵を返して駅の改札へと向かった。